医療機関に求められるコンプライアンス

前回は、診療報酬の不正請求等で保険医療機関等の指定取消しを受けたこと、不正請求に至った理由について述べましたが、わずか3か月という異例のスピードで再指定となりました。今回は、その処分期間が大幅に短縮された理由と、その影響について考えてみます。

処分期間が大幅に短縮された理由として

① 周辺病院で患者の受け入れが限度に達し始め、地元患者が不便を来している。
② 同センターは「地域がん診療連携拠点病院」でもあり、周辺に同センターに代わる医師供給機能を担う病院がない。
③ 再指定までの期間が長引けば、同センター自体が膨大な赤字によって倒産する可能性もある。
④ 保険者から請求のあった返還金を全て返還している。
⑤ 保険診療に関する職員研修の開催など再発防止策の実施によって改善が認められる。
つまり、処分期間を短縮して早急に再指定しなければ地域医療の確保に支障が生じるということです。ここで、地域医療の実情が浮き彫りになった感じがします。

◆信頼回復と重い課題
報道によると、同センターが取消し処分を受けていた間、救急や特定疾患、がんなど同センターでなければ診療できない患者さんに限り、療養費払い制度を活用して従来通り診療を継続していましたが、該当しない国保加入者以外の約4000人の患者さんを他の医療機関に紹介したため、医療収入は通常の3分の1~4分の1に減少しました。
他の医療機関に紹介した患者さんが今後どのくらい戻るかは不透明です。
一度失われた信頼はなかなか回復できるものではありません。どのように病院の不信を払拭し信頼回復に努めるのか、非常に重い課題も指摘されているところで、今後もより厳しい運営を迫られることになりそうです。

今回の事案は「赤字脱却のために、各種施策を強力に推し進めたけれども黒字転換せず、その過程でコンプライアンスを無視した施策に走ってしまった」という当時のセンター長のコンプライアンス意識が不足していたことに端を発し、結果的に医療全体の信頼を失墜させたと言わざるを得ません。今や、企業のみならず、多くの病院においても経営課題の一つとしてコンプライアンスを意識しなければならないと思われます。
では、「医療機関に求められるコンプライアンスとは何か」について考えてみましょう。

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◆医療機関に求められるコンプライアンスとは
一般に、「コンプライアンスとは法令遵守である」という狭義に捉えられ、形式的・表面的に法令に違反しなければ、コンプライアンスが実行できていると考えられています。しかし、たった一人の起こした不祥事で、あるいは、たった一度の不祥事でも経営ができなくなる、会社の信用が地に堕ちて存続が難しくなる可能性がゼロではない、ということを考えると「法令の精神を実質的に遵守し社会の信用を守るための対策」と、広義に捉えるべきでしょう。
特に信頼関係を前提とする医療行為や医事業務をサービスとして提供する病院において、その信頼性は非常に重要で信頼性を毀損させることは絶対許されません。
つまり、医療機関に求められるコンプライアンスとは、形式的・表面的に法令に違反しないようにすることではなく、病院運営上の業務全般に係わる法令遵守だけに留まらず、組織倫理の遵守や社会貢献、リスクとなり得る病院内システムや文化はないか、更にリスクを回避するためにどういうルールを設定して行くか等、内部統制体制の整備までを含んでいると考えるべきではないでしょうか。

*東京医科大学のホームページ上で、当該行政処分についての再発防止策として、事案の概要や検証結果等「診療報酬不正請求の再発防止策の実施状況について」を公表しています。参考までにご覧ください。詳しくは コチラ↓
http://www.tokyo-med.ac.jp/news/20121128.html