◆未収金対策として
一旦未収金が発生すると、医療機関における自助努力による回収にしても法的措置をとるにしても労務や時間をかけることができない、実効性に問題があること等、事後的な回収努力については、一定の限界があります。したがって、未収金対策を検討するにあたっては、いかに未然に発生を防止するかが重要となります。
4.高額療養費制度の周知と活用
前回のニュースでも触れましたが、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入し、病気の人を健康な人が支えるというのが「国民皆保険」という制度です。この「国民皆保険」により、かかった医療費のうち患者の自己負担額は、最大でも3割までで、残りは加入している保険者の負担となります。
では、手術や化学療法などで医療費が高額になった場合、患者の自己負担が無限大に医療費の3割かというと、そうではなく、患者本人や家族の収入によって自己負担の上限額(「自己負担限度額」といいます)が決まっています。
医療機関や調剤薬局に支払った1か月の医療費が「自己負担限度額」を超えた場合に、その「自己負担限度額」を超えた金額を、加入している保険者から「高額療養費」として、給付(還付)する制度を高額療養費制度といいます。
そして、窓口での支払いを「自己負担限度額」までにとどめることができる仕組みを「高額療養費の現物給付化」といいます。
↑医療費の増加と高額療養費の関係
未収金対策としては、高額療養費の現物給付化などの公的保証制度を周知し、制度の活用を図ることによって、患者の自己負担額を軽減することが効果的です。
意外に、この制度の仕組みがよく知られていないので、「高額療養費制度」と「高額療養費の現物給付化」について、そのポイントをわかりやすくまとめてみました。
まず、高額療養費制度の利用の仕方について、みてみましょう。
5.高額療養費制度の利用の仕方
*70歳未満・一般所得の方の1か月の入院費が100万円だった場合
-事後手続き-
①退院時、窓口で入院費用の3割(30万円)を支払う。
②加入する保険者から申請書類を入手して高額療養費の支給を申請する
③約3か月後に、窓口で支払った30万円から自己負担限度額(約9万円)を差し引いた、約21万円が高額療養費として支給(還付)される。
このパターンだと、約3か月後に自己負担額を差し引いた高額療養費が支給(還付)されるものの、退院時に30万円準備する必要があります。
◆高額療養費の現物給付化
あらかじめ、治療を受ける前に、限度額の『認定証』を窓口に提出しておくと、窓口での支払いを「自己負担限度額」までにとどめることができます。
-事前手続き(高額療養費の現物給付化)-
①加入する保険者に事前に『所得区分』の認定証を発行してもらう。
②入院時に認定証を呈示することで、退院時は自己負担限度額(約9万円)になる。
③病院から保険者に高額療養費を請求する。
④保険者から病院に高額療養費 約21万円が支給される。
高額療養費が医療機関や薬局に直接支払われるため、患者が事後に高額療養費の支給申請をする手間が省けます。
次に、高額療養費がどのように算出されるのか、具体的にみていきましょう。
6.高額療養費算出のポイント(算出要件)
① 個人ごと
② 医療機関ごと
③ 入院と外来は別
④ 月(月の1日~末日)ごと
高額療養費は、基本的に上記4要件で算出しますが、一定の要件のもと世帯で合算することもでき、さらに最終的な自己負担が軽減される仕組みになっています。
◆負担の上限額
毎月の「負担の上限額」は、加入者が70歳以上か70歳未満かという年齢と、加入者の所得区分によって分けられ、それぞれ計算式が異なります。(所得区分と計算式は 後述、参照)
ここでは、70歳未満で一般所得(低所得、上位所得に該当しない)方の1か月の医療費が100万円だった場合の「負担の上限額」を計算してみます。
70歳未満で一般所得の方の計算式 ⇒ 80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
この計算式にあてはめると、負担の上限は
80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円 になります。
※尚、保険診療に対し患者が支払った自己負担額が対象となるため、「食費」・「居住費」・「差額ベッド代」等は高額療養費支給の対象にはなりません。
高額療養費制度は、1か月(月の1日~末日)ごとに算出し、月をまたいでの合算はできません。同じ治療計画でも、治療開始のタイミングによっては、1ヵ月以内(1日から月末)に終了する場合と、2ヵ月にまたいで終了する場合では、医療費の患者負担に差が生じます。
例えば、70歳未満で一般所得の方が、
7月25日に入院して月をまたいで8月に退院する場合と、8月1日に入院して8月中に退院する場合とでは、患者負担に約9万円の差が生じます。
つまり、前者の場合7月と8月それぞれ負担の上限額まで(約9万円)支払うことになるので、患者負担は約18万円になりますが、後者の場合、患者負担は約9万円となります。
最後に、「世帯合算」や「多数回該当」などにより、さらに最終的な患者自己負担額が軽減される仕組みをみてみましょう。
◆.負担を軽減する仕組み
(厚生労働省公表資料↑)
例えば、70歳未満で一般所得の方の場合
80,100円+{(200,000+80,000+100,000)-267,000}×1%=81,230円 が上限額なので、
114,000-81,230=32,770円を高額療養費として事後申請すれば支給(還付)されます。
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*所得区分と計算式 <参照資料>*
注) 同一の医療機関における同月内の自己負担が限度額に達しない場合でも、
① 同月内に複数の医療機関でそれぞれの自己負担が21,000円以上支払った場合、
② 同月内に同一世帯で21,000円以上の自己負担を2回以上支払った場合、
これらを合算することができ、この合算額が負担の上限額を超えれば、超えた額が高額療養費として支給(還付)されます。
また、同一世帯で直近12か月に3回以上高額療養費が支給(還付)されている場合、4回目からは多数該当となり、さらに自己負担の上限額が引き下がります。
同月内の自己負担が限度額に達しない場合でも、同月内に複数の医療機関等における自己負担額、同月内に同一世帯でかかった自己負担額をすべて合算できます。
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