医療分野のロボット革命~コミュニケーションロボットの戦略的活用について~(4・完)

6.コミュニケーションロボットの今後の展望

 現在Pepperをはじめとするコミュニケーションロボットの医療機関での活用例は、館内案内のほか疾患啓発活動等があります。

活用例①:Pepperを活用したロコモティブシンドロームに対する啓発活動
 2016年11月から神奈川県K病院で実施。Pepperが会話を中心にタブレットで日本整形外科学会公認のロコモ度テストによる約25問の質問を実施。回答結果からロコモ度を判断して体験者に即座に結果を通知。ロコモ度が高いと判断された体験者には、Pepperからロコモ予防のための健康体操を提案して、体操のやり方をタブレットで動画表示するとともに、Pepperが姿勢を検知して的確にアドバイスを行う。

活用例②:Pepperによる館内案内、病気予防ガイダンス、ロボット・セラピー
 2016年12月から埼玉県J大学病院にて実施。館内案内は業務負担軽減のほか、患者待ち時間の有効活用にもつながる効果的な接客支援となった。ロボット・セラピーは孤独感を抱える長期入院患者の自発性向上に効果を上げている。

活用例③:Pepperを活用した睡眠時無呼吸症候群に対する啓発活動
 2017年2月から沖縄県T病院にて実施。Pepperが問診を行い、プリンターと連動して結果をプリントアウト。罹患のおそれのある患者に受診のアドバイスを行う。以前のポスターによる喚起では受診者ゼロだったが、問診を受けた大多数の患者が受診を希望し、Pepperによる問診に対しても73%の患者が満足しているという結果だった。

 上記①~③の活用例をふまえ、今後コミュニケーションロボットを活用する上で持つべき視点として次の様に考えます。
 
 まず1つ目は、患者サービスの充実という視点です。例えばロボットに初診患者が受付窓口に並ぶ前の前捌きの受付を行わせる事で、患者動線が最適化されるほか、紹介状やその他受付に必要な書類を準備する事もでき、待ち時間を有効に活用できる事が考えられます。
 活用例②のロボット・セラピーは、長期入院患者の孤独感の緩和剤としてロボットを活用し、業務の最適化と患者QOLの向上の両立を実現させた事例です。患者がロボットに興味を示して自発的にコミュニケーションをとろうとする事により、従来のアニマル・セラピーによるメンタルケアよりも効果的である事だけでなく、ロボットがホスピタリティの不足面を補完できる事を実証するものでもあると思われます。また、人には言えない事もロボットには相談できるという意見もある事から、患者が職員に訊ねにくい質問の対応をロボットが行い、職員が患者に伝えにくい事をロボットが伝える事で、トラブルが未然に防止できてコミュニケーションがより円滑になる事も考えられます。
 
 次に人的リソースの再配分という視点です。1台のロボットが人一人分の仕事を行うにはまだ技術の進歩を必要としますが、例えば再来受付機の使い方の説明やよくある質問への回答など、定型的な内容で即座のリアクションが求められる業務は現在のコミュニケーションロボットでも十分に担えると考えられます。
 活用例①③の疾患啓発は、この視点からロボットの行動の即応性と判断の正確性に着目した活用例であり、問診を行う人員が不要になるだけでなく、人による問診よりも正確に判断され、患者に対して最適かつ効果的な指導を短時間で行えるという大きな利点があげられます。
 
 その他、コミュニケーションロボットの有効活用で重要なカギとなるのは、外部デバイスやシステムとの連携ではないかと考えます。コミュニケーションロボットの画面の小ささを補完するための大型ディスプレイとの接続やプリンターとの連携の他、電子カルテや医事システム等と外部システムとのデータ連携や患者スマートフォンとの連携等をコミュニケーションロボットにも取り入れることで活用範囲が広がるのではないでしょうか。
 例えば電子カルテや医事システムとの連携によって、コミュニケーションロボットが診察予約内容や前回来院日など患者ひとりひとりの状況に応じた案内を行うことで、より正確かつ迅速な事務処理が可能になるほか、患者満足度の向上にも繋がるものと考えます。このようにロボットを患者とのコミュニケーションのフロントエンドとして位置づけ、実際の処理やリアクションのためのデータはバックエンドや他のシステムとの連動により行うことで、さらなる可能性が広がる事が想像できます。

パーソナルロボット 医療機関におけるコミュニケーションロボットの本格的な実用化には、他機器との連携等カスタマイズできる人材の不足や活用範囲の狭さ等の課題もありますが、今までに述べてきたように「ロボットでも出来ること」から「ロボットだからこそ出来ること」、「ロボットがした方がよいこと」に視点を転換することで活用範囲が拡大し、様々な効果が期待できると考えます。
 ロボットの利活用でより良い社会を実現しようという考えと同じく、ロボットを将来あるべき病院の姿を実現する為のパートナーとして捉え、あらゆる視点で戦略的に活用していく事が業務プロセス改善と患者満足度の向上に繋がり、良好な病院経営を実現するものと考えます。

【参考文献】
・メディファクスウェブ http://mf.jiho.jp/servlet/mf/index.html
・ロボット情報WEBマガジン ロボスタ「レポート 医療現場にロボット活用、疾患啓発を行うPepperの導入効果は?」https://robotstart.info/2017/02/12/pep-toku.html
・『医療用ロボット開発に有利な日本』2016年6月 株式会社旭リサーチセンター
・日経デジタルヘルス「トヨタのロボット、医療現場へ」http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/327441/052300202/?ST=health
・第2回未来投資会議(平成28年11月10日)http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201611/10mirai_toshi.html
・『NEDOロボット白書2014』http://www.nedo.go.jp/library/robot_hakusyo.html
・「日本再興戦略」改訂2014 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/honbun2JP.pdf#search=%27%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%86%8D%E8%88%88%E6%88%A6%E7%95%A52014%27
・MM総研 M&Dレポート https://www.m2ri.jp/
・バランススコアカードnavi  http://www.itl-net.com/bsc/health.html
・日経テクノロジー「吉本興業がロボットの研究所を立ち上げた理由」 http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20140804/368922/?rt=nocnt
・日経ITpro  http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/watcher/16/110700001/071300041/

※本文中の事例は、ソフトバンクロボティクス㈱のPepperを活用し、導入団体が独自に実施しているものです。

【編集後記】
 医療分野のIoT、ビッグデータ、人工知能、ロボットの活用化は第4次産業革命(Society5.0)でも主要戦略となっています。第4次産業革命は、生産性向上と技術革新が趣旨で「イノベーション」がキーワードとなっています。イノベーションとは「革新」「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい活用法」等変革する事を意味する言葉です。2018年の診療報酬改定もそれをふまえた方針が示されているので、今後ますます電子化による生産性の向上、技術革新の風潮が高まっていくことでしょう。
 医療機関の電子化は1990年代後半から2000年代にかけて本格的に加速しましたが、医療事務員の間ではカルテの電子化によって「カルテ出し」「フィルム出し」の作業がなくなるのは嬉しいけども、仕事自体がなくなってしまうのではないかと懸念する人もいました。それと同様に最近では「ロボット、AIが人間の仕事を奪う」とした「ロボット脅威論」「AI脅威論」がメディアでも話題になっています。人をサポートしてきたロボットが、人の物を奪う「脅威」となる事は誰も予想していなかった事だと思いますが、ロボットが人一人分の仕事をすることが可能になれば、ロボットが人に替わる時代が来るかもしれません。しかし、技術の進歩に対応できる人材が必要ですし、ロボットによる効率化、生産性の向上で同業者同士の競争が激化する事も考えられます。ロボットが人に替わる時代になるからこそ人材の再教育が重要であり、「脅威」ではなく事業の進歩と人の成長の「機会」と捉えて、新たな可能性を開拓していく姿勢で変革を受け入れるべきだと考えます。
 本文ではホスピタリティの強化を中心にコミュニケーションロボットの有用性について述べてきましたが、患者ニーズが多様化している現在において、医療機関こそロボットとの協働による品質改善、価値共創の視点が必要なのではないでしょうか。患者中心の医療の原点は、「如何なる患者であっても差別せず、患者に害を与えず、最善の治療を行う」という医の倫理です。本文で述べたように人の力だけでは100%不足のないホスピタリティの実現は不可能ですが、人でなければ人情の機微を理解できません。それゆえ最善の治療を行う為には医療者と患者の信頼関係こそが重要になります。医療の質の向上とともに人材力を向上し、いかに高いホスピタリティ・マインドを体現化できるかが地域に根差し選ばれる病院になるためのカギとなると思われます。
 今回は業務プロセスの改善と患者満足度の向上を両立し、患者中心の医療を実践するための画期的なイノベーションの一例として、コミュニケーションロボットの活用を取り上げました。単に新しい技術を取り入れるだけでなく、視点や機軸の転換によって新しい価値を生み出し、課題を解決して理想を実現する事こそがイノベーションであると考えます。次世代の病院経営における戦略のひとつとしてご参考いただければ幸いです。