5.コミュニケーションロボットの活用例と課題
コミュニケーションロボットは、「人の言語や顔、存在などの認識機能や人からのボディタッチ(接触)の検知機能、得られた外部情報に応じて自律的に反応する機能を持つロボット」と定義され、人の日常生活をサポートするサービスロボットです。
〇コミュニケーションロボットの主な特徴と機能
経済産業省によると、2035年のロボット産業の市場全体の規模は2015年の約6倍に成長する見込みであり、その中でもサービス分野市場が急速に成長し、それに伴いコミュニケーションロボット市場の拡大が加速すると予測されています。
コミュニケーションロボットの市場拡大の理由としては、音声や画像認識の技術の著しい進歩により実用に耐えうるレベルに到達している事と、技術の発達に伴い低コスト化が進んだことが挙げられます。このような背景の中でソフトバンクのヒト型ロボットPepperの登場により、一気に市場拡大が加速しました。Pepperの場合は、企業向けモデルであれば月額55,000円の36か月レンタルといった価格が設定されており、他社もそれに追従すべく、価格を抑えたロボットの市場投入が進んでいます。また、スマートフォンのアプリストアのようなスタイルで新たなソフトウェアが購入できて、独自の動きをさせるためのソフトウェア開発の環境も整備されているなど、利用環境が整っていることも導入が進んだ大きな要因となっています。
企業のコミュニケーションロボットの導入は、2014年に大手食品メーカーが店頭での商品説明に活用した事をはじめとして、銀行、販売店や飲食店へと拡大し、店舗での集客だけでなく多言語対応の受付、接客といった事例も増えています。現在は500社以上の企業でコミュニケーションロボットが導入され、教育現場でも活用されるようになりました。
〇コミュニケーションロボットの主な活用例
銀行では2015年から都市銀行を中心に導入され、金融知識を小噺調に楽しく紹介するサービスのほか、待ち札番号に応じた運勢占いや性格診断、質問回答に応じた保険診断等のサービス、大人もこどもも楽しめるゲーム等のサービスを展開しています。この事例は待ち時間の退屈感の軽減だけでなく顧客に対する効果的な商品提案を実現するものであり、アメリカの銀行業界団体からも「金融イノベーションの促進」として高く評価されています。
また大手家電量販店による事例では、店頭に設置したロボットと説明員が商品説明を行うテストマーケティングを実施し、ロボットの接客後56%の顧客が購入を前向きに検討するなどの大きな販売促進効果が実証されています。
そのほか、最近では吉本興業の協力によってユーザーの声を聞き逃しても会話が成立するコンテンツが開発されるほか、お笑いやダンス等のパフォーマンスも充実し、介護施設においても見守りや生活支援だけでなく、カラオケ大会の盛り上げ役として活躍しています。
このようにコミュニケーションロボットの特徴と機能を活かした人とロボットの協働による新しいサービスは、サービス品質改善、顧客満足度の向上に有用であり、多くの企業にとって課題である「顧客との価値共創」においても効果的であると考えられています。
しかしながらロボットの機械的な所作や会話のズレ等の違和感に抵抗がある人も少なくありません。図-2は企業におけるコミュニケーションロボットの導入に関する調査結果です。
図-2 コミュニケーションロボットの導入阻害要因
(出典:コミュニケーションロボットの企業需要動向 2016年1月 MM総研)
コミュニケーションロボットの導入を阻害している要因として、「業務上活用する余地がない」、「導入コスト」、「投資対効果が不明確」が多くなっています。2016年の後半からはコミュニケーションロボットの売上げが伸び悩み、開発会社が自治体や教育機関のプログラミング教育に活用するなど、新たな方策を検討しているという報道もあるようです。
医療機関では、患者サービスにロボットは代用できないという固定観念からその傾向がより強いものと思われ、コミュニケーションロボットの導入は一部の医療機関にとどまり、他の業種に比べても少ない現状です。介護施設においてもロボットとの協働に嫌悪感を示す職員も多く、本格的な実用化にはさらなる技術の発展が必要と考えられています。
一方で、一般消費者への「コミュニケーションロボットがあるとよい」と思う場所を調査した結果、病院・介護施設が全体の1位となっています。
図-3 コミュニケーションロボットがあれば良いと思う場所
(出典:コミュニケーションロボットの企業需要動向 2015年10月 MM総研)
図-3の調査結果から、現在の病院におけるコミュニケーション、または待ち合いの居心地といった部分になんらかの不満や問題意識があり、コミュニケーションロボットによってそれが軽減、改善される事が期待されているという事が考えられます。これは、人的対応による欠点、空間の不足感をコミュニケーションロボットによって補充できる事を意味するものであり、この事から「ロボットでも出来ること」ではなく、「ロボットだから出来ること」という視点の転換が必要だと考えます。
次回は、コミュニケーションロボットの今後の展望について考察してみたいと思います。