◆はじめに
-保険医療機関等の指定取り消しについて-
厚生労働省のホームページを覗いてみると「平成23年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について(概況)」が、公表されていました。
診療報酬の不正請求等で、平成23年度に保険医療機関等から返還を求めた額が、なんと、 約82億9千万円(対前年度比約7億5千万円増)だそうです。
今回(創刊を記念して)前代未聞と言える大学病院が保険医療機関指定取消し処分を受け、その後、わずか3ヵ月という異例のスピードで再指定を受けた「東京医科大学茨城医療センターの保険医療機関指定取り消し」事例を題材に、なぜ不正請求を行ったのか、不正に至った理由から、本来の趣旨を見失った「医療保険制度」に問題はないのか、又、経営課題の一つとして意識しなければならない「医療機関に求められるコンプライアンスとは何か」について考えてみたいと思います。
*各紙の報道によると同センターが、不正請求を行った加算制度は、「入院時医学管理加算」・「医師事務作業補助体制加算」・「画像診断管理加算2」の3項目です。
これら3項目のうち「入院時医学管理加算」と「医師事務作業補助体制加算」の2点について、そもそも本来の趣旨を見失った「医療保険制度」に問題はないのか、についえ考えてみたいと思います。
◆「医療保険制度」の問題点
1.「入院時医学管理加算」(別添3)について
平成20年の診療報酬改定で、「入院時医学管理加算」の要件が見直され、外来の縮小など勤務医の負担軽減のための取り組みを行っている、高度医療、救急医療が充実している大病院、地域の中核病院が評価されることになりました。
この「入院時医学管理加算 120点(1日につき、14日を限度)」の算定要件として、
①産科、小児科、内科、整形外科および脳神経外科のみならず精神科にも「24時間対応診療をする」こと
②「退院後に外来通院治療の必要が全くない“治癒率”が40%」という要件が加わったこと
つまり、24時間フルラインで診療を行い治癒率40%という目標設定です。
治癒率40%を達成するのは地域の中核病院にとってはかなり無謀な目標設定です。茨城医療センターはこの「治癒率40%」を満たしていなかったにもかかわらず、「治癒傾向」も含めて算定し加算申請したことが不正請求の理由です。
続いて、当該診療報酬改定で新設された「医師事務作業補助体制加算」について、考えてみましょう。
2. 「医師事務作業補助体制加算」について
「医師事務作業補助体制加算」は、勤務医の診療以外の業務の軽減のために診断書作成や診察・検査の予約の補助を行う事務員を設置し、医師に本来の医療に専念する時間を作る、という趣旨で設定されたもので、医師の診療以外の業務の軽減に寄与するものと期待されました。
しかし、当該加算体制は「医師事務作業補助者」に6 ヵ月の研修が義務付けられていることなど施設基準のハードルが高く、比較的余裕のある病院でなければ、補助者の採用に踏み切りにくいものでした。
また、『専従』という2文字の要件が付けられたことで、「医師事務作業補助者」は文字通り“医師の事務作業の補助”しか行えなくなりました。つまり、医師事務作業補助者は、医事課の業務を手伝うことも、看護助手の手伝いに入ることもできないということです。
茨城医療センターでは、この医療事務作業補助者が『専従』ではなく他の業務を行っていたことが虚偽申請に該当しました。
<注>
この事案は平成20年の診療報酬改定時から約1年間(平成20年4月から平成21年5月)に不正請求されたもので、その後、医師事務作業補助者の配置状況や業務内容等について見直しが行われ、現在は「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(通知)」において、
●6ヵ月の研修を実施すること
⇒6ヵ月間は研修期間として必要な研修を行い、この6ヵ月の研修期間内に32時間以上の研修を実施すること。
に変更されています。また、医師事務作業補助者が実際に勤務する場所については、業務として医師の指示に基づく医師の事務作業補助を行う限り問わないことから、外来における事務補助や、診断書作成のための部屋等における勤務も可能であること。
と【専従】の要件が緩和されています。
これら、各紙報道を総括すると、不正に至った理由として下記3点が挙げられます。
当時のセンター長の
①ワンマン体質と不正行為の指示
②コンプライアンス意識の欠如
③ガバナンス(内部統制体制)の不備
ガバンスの不備については、センター長の上位にある大学本部、学長、理事会等のセンター長に対する管理監督が十分に行き届いておらず、また、下位にある副センター長、事務部長、幹部会議等がセンター長の暴走を監視・抑止する組織があるにもかかわらず、これらが全く機能していなかったと総括しています。
尚、同センターは原則「5年間」の処分期間が大幅短縮され、わずか3か月という異例のスピードで保険診療を再開しています。
次回は、処分期間が大幅に短縮された理由と、保険医療機関の指定取り消しを受けた様々な影響について考えてみましょう。