医療分野のロボット革命~コミュニケーションロボットの戦略的活用について~(2)

3.医療分野のロボット実用化に係る政策

 ロボット技術の医療・福祉分野への活用は、平成14年に発表された「21世紀ロボットチャレンジプログラム基本計画」において、新規市場、新産業の創出を目指し、国民生活の質的向上を図るものとして位置づけられました。

〇ロボット実用化に係る主な政策

ロボット政策

 2014年4月に政府は、検査や診察で得られるデータをロボット手術に生かしたり、患者の位置情報を待ち時間の解消に役立てたりする情報のシステム化を主とする病院の「丸ごとIT化」を表明し、健康・医療戦略推進本部に作業部会を設置しました。同年6月の「日本再興戦略」改訂2014には「ロボットによる新たな産業革命の実現」が掲げられ、医療・介護サービス現場のロボットの活用による生産性の向上の実現がもりこまれました。これを受けて同年9月に安倍総理のイニシアチブによる「ロボット革命実現会議」がスタートし、2020年に向けた指針として2015年2月に「ロボット新戦略」が策定されました。(平成27年2月10日、日本経済再生本部決定)

4.医療機関におけるロボット戦略

 前述の「ロボット新戦略」は、日本を世界のロボットイノベーション拠点として、ロボットが日本の津々浦々で利活用される社会を目指そうというものです。この基盤となるのは、ロボットという技術を活用する事によって、社会の様々な場面、工場、オフィス、病院、公共空間、家庭など人々が活動を行っている多くの場面で人の活動を代行・支援することによりわが国の社会が抱えている数々の課題を解決し、より良い社会を実現していこうという考えです。
 NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の『NEDOロボット白書2014』では、医療機関におけるロボットの活用には、1つの業務に対してではなく、病院の業務フロー全体、問題点、課題を分析し、改善施策を示したバランススコアカード(以下BSC)を作成した上で、ロボットの効果を考える事が必要であるとしています。
 『NEDOロボット白書2014』では、BSC作成によって見えてくる、病院のコメディカル業務全体においてボトルネックになっているプロセスや特に全体に影響を与えているプロセスに関して改善施策を設定し、その改善施策として従来作業からロボットに置き換える事により、全体的にどのような改善効果があるかのシミュレーションを行った上で、ロボット導入・活用の是非を決定するという考え方が示されています。
ロボット戦略BSC

 

図-1 病院の経営改善のためのバランススコアカードの事例(『NEDOロボット白書2014』をもとに作成)

 BSCは4つの視点(財務の視点、顧客の視点、内部プロセスの視点、学習と成長の視点)で目標を設定し、「学習と成長」が「内部プロセス」の改善につながり、「顧客(患者)」満足度を高め、結果として「財務」が健全化するといったシナリオによる経営管理手法です。医業経営BSC例 生産性の向上と業務プロセス改善の視点による効果的なロボット化の実例として、薬剤、検体等の自律搬送用ロボットの導入があります。医療者でなくてもできる業務を医療者が行っていることが生産性向上を阻害しているという問題点に着目し、それらの業務をロボット化・デジタル化する事によって業務の効率化を実現するもので、生産性の向上に大きな効果があるとして大病院を中心に導入が進んでいます。
 
 また安心できる医療サービスの提供を実現するロボット化の実例としては、注射薬払い出しロボットの導入があります。注射薬払い出し業務は患者の状態によって処方内容が変更されるなど、薬剤師にとって特に作業負担の大きい業務であり、医療事故が多い事も問題視されていました。注射薬の準備をロボット化・デジタル化することで、薬剤師が服薬指導に専念する事が出来るなど、医療の質の向上だけでなく医療安全の観点からも大きな効果があると考えられています。このように医療用ロボットの導入は、医療の質の向上や生産性の向上だけでなく、医療者のモチベーション向上にも有用であり、離職率の減少など経営の質の改善も期待できると考えられます。
 
 しかし、医療職には患者のメンタルケアなど合理化出来ない業務も多く、業務の最適化を図る上でホスピタリティ向上との両立が課題になっています。財務の健全化には患者満足度の向上が不可欠であり、患者の視点からも効果的なロボット化こそが必要であると考えます。ホスピタリティの向上には、患者サービスの更なる充実が課題であり、コミュニケーションロボットの活用が有用であると考えます。

 次回はコミュニケーションロボットの活用例と課題についてご紹介いたします。