医療分野のロボット革命~コミュニケーションロボットの戦略的活用について~(1)

1.はじめに

 近年医療界では、団塊の世代が75歳以上になる2025年の到来に向けて、健康寿命の延伸と医療産業の活性化を目的として、ICT活用による「次世代医療」が推進されるようになりました。2017年4月の第7回未来投資会議では、「医療・介護のパラダイムシフト実現」が掲げられ、2018年度の診療報酬改定においてICTやAIによる診療支援や遠隔医療のほか、ロボットの活用を評価する事が明言されました。
 
 日本においてロボットは、1980年代から製造業を中心に活用されるようになり、近年はコミュニケーションロボットの開発が進んでいます。コミュニケーションロボットは販売店、銀行といったサービス業を中心に導入され、業務の効率化に効果的であるだけでなく、顧客満足度も向上し、販売促進効果もある事が実証されています。2015年からは家庭用コミュニケーションロボットの市場投入が始まり、2020年度には2014年の約10倍まで市場が拡大する事が予測されています。医療界では手術支援ロボット等のメディカルロボットが大病院で活用されているものの、コミュニケーションロボットは活用範囲が狭いなどの理由から導入が進んでいません。

 超高齢社会において、医療資源の効率化だけでなく、患者中心の医療の実現も医療機関の大きな課題です。今後は医療機関でも単なる人的サービスの代用ではなく、ロボットとの共存、協働によるホスピタリティの向上という視点でのロボットの活用が必要ではないかと考えます。そこで今回は、医療機関におけるコミュニケーションロボットの活用について考えていきたいと思います。

 2.医療界におけるロボットの導入経緯

 日本は世界に冠たるロボット大国であり、1970年代から大企業を中心に溶接、加工ロボットの導入が始まり、1980年を「ロボット普及元年」として、人手不足を背景に産業用ロボットが本格的に普及するようになり、世界の産業用のロボットの57%が日本で生産されるようになりました。(2011年経済産業省調査より)
 医療界では、医療サービスの基本は「人の手と心」によるハンドメイドであるとして、ロボットやコンピュータでは代行することができないと考えられていました。しかし、1990年代に入り経済低迷と少子高齢化の進行に伴い、経済力の持続的保持と労働資源の拡充の観点から医療分野においてもロボットの活用が検討されるようになりました。その後採血管を採血場所まで運ぶロボットのほか、人間の運動障害の治療に役立つロボット等、業務の効率化だけでなく医療の質の向上の観点からもロボット工学が活用されるようになりました。

 IFR(国際ロボット連盟)によると、医療用ロボット(メディカルロボット)は医療サービスの提供または医療現場で使用する事を目的としたサービスロボットに該当するとしています。現在医療用ロボットと称されているものは、調剤ロボット(主に服薬支援)、手術支援ロボット(治療や診断に使用するもの)、コミュニケーションロボット(家庭用ロボットとしての汎用性のあるもの)があり、これらのロボットのうち、治療や診断を目的とし、効果・効能を謳うロボットは医療機器とされ、医薬品医療機器等法による規制の対象となっています。
ロボット表1

 2003年に経済産業省が発表した「21世紀ロボットチャレンジプログラム」により、自動車や産業用ロボット等で培ったロボット関連技術が家庭内や介護・福祉分野に拡大されました。医療界でも医療用ロボットの開発が進み、2010年には根治的前立腺全摘除術における内視鏡下手術用ロボット(da vinci S)支援が保険との併用を認める先進医療として承認されました。その他、体の不自由な人の自立生活支援を目的としたロボットスーツ「HAL®」や、人体に極めて似た外観や反応を備えたヒト型医療用ロボットなどが開発され、時代の変遷に伴いロボット活用の目的も、労働力不足による代替から、より高いレベルの生産性を獲得する事へと転換していきました。

 次回は、医療機関におけるロボット戦略や、コミュニケーションロボットの活用例と課題についてご紹介いたします。