1.はじめに
平成26年10月に施行された医療機関における勤務環境改善に関する法改正から、およそ2年が経過しました。
周知のとおり厚生労働省は、医療機関が計画的に勤務環境改善に取り組むことで医療に携わる人材定着と育成を図り、国民への質の高い医療サービスを実現することを目的として、「医療勤務環境改善マネジメントシステム」を創設しました。
また、勤務環境改善の取り組みを支援するため、各都道府県には「勤務環境改善支援センター」も設置されています。
このように、法令や制度等により医療スタッフにとって働きやすい職場作りを実現するための国としての環境自体は整備されつつありますが、一方で、実際の医療現場においては医療スタッフの確保や定着に困難をきたし、疲弊した職場環境となっている医療機関は多いと思います。
特にメディアでもよく取り上げられている「看護職員不足」の問題は深刻であり、その背景として長時間労働や夜勤・交代制勤務といった看護業務の厳しい現状が、「働きにくい」職場環境として看護職員の定着率・離職率に影響を及ぼしているという実態があるようです。また、労働時間や勤務形態といった制度や仕組み的な要因だけでは無く、「働きがい(労働意欲)」が持てる職場環境をいかにして構築するかも大きな要因といえます。
そこで今回は、この「看護職員不足」の問題を取り上げ、「働きやすい」職場環境と、「働きがい」のある職場環境をつくり、人材の確保と定着を図るための取り組みについて考察してみたいと思います。
2.看護職員数の現状と充足状況について
前述のとおり世間では「看護職員不足」が問題視されていますが、実際の看護職員の就業者数の推移を見てみると、1960年には約24万人であった看護職員は、2013年には約157万人と6.4倍に増えています。(図1)
また、厚生労働省医政局看護課の調べによると、平成15年から平成24年の過去10年間の看護職員の対前年比増減数は、平均して約3.0万人増加しているという結果が報告されています。
これらの指標からは、看護職員の数は年々順調に増加していることがわかります。
※図1:公益社団法人日本看護協会『看護職の終業継続・再就業促進のために考えておくべきこと~少子超高齢社会の人材確保を考える~』(2016年7月14日・日本医業経営コンサルタント協会継続研修会資料)より転載
しかし、日本看護協会の調べによると、7割以上の看護部長が看護職員の「不足」を感じているという結果も出ています。(図2)
※図2:公益社団法人日本看護協会『看護職の終業継続・再就業促進のために考えておくべきこと~少子超高齢社会の人材確保を考える~』(2016年7月14日・日本医業経営コンサルタント協会継続研修会資料)より転載
この結果によれば、年々順調に看護職員数が増加しているにも関わらず、現場の声としては依然看護職員不足の状況が続いているということになります。つまり、必要とされる看護職員数に対し看護職員養成が追い付いていない状況、需給ギャップが生じていると考えられます。
これは、7対1看護基準の導入に見られるような診療報酬上の理由やチーム医療の推進などによる診療内容の向上により看護職員の需要が増加しているのに対して、看護職員養成が追い付いていない状況があると考えられます。さらに今後は、地域包括ケアシステムの構築に向けて、療養の場が「医療機関から暮らしの場へ」移行するため、地域における看護提供体制の構築にあたり、看護職員のより一層の量的・質的拡充が必要になることが見込まれています。2025年段階の看護職員の需給に関しては、社会保障国民会議における医療介護費用シミュレーションに基づいた様々な検証・考察においても、看護職員の需要が供給を上回る予測が行われています。
このように、今後も看護職員の需要増加が明らかとなっている現状においては、新たな看護職員の養成とともに、資格を有しながら就業していない看護職員、いわゆる「潜在看護職員」の復職支援や離職者を発生させない取り組みが重要といえます。
次回は、看護職員の就業率や離職理由などについて考察します。