5 おわりに
以上みてきたように、地域医療連携推進法人制度は、経営難を迎えている地方の医療機関を、他の医療機関と連携させることにより、自らの専門性及び収益性を高めて、地域医療構想の一端を担わせることに役立つ制度であるといえます。当初の構想であった非営利ホールディングカンパニーにくらべると、参加法人の統制や参加法人同士の事業統合という意味合いは弱くなり、各医療機関の連携を強調して、地域医療構想達成のための手段として活用することになりました。この点については、もっと参加法人を、強制力を持って統制する仕組みにしなければ不十分という意見もあるようです。
また、経営力、資金力が高い医療法人は、わざわざ地域医療連携推進法人を設立にするには、開設手続きと運用が煩雑なため、既存病院をM&A(合併・買収)する方法をとるのではないかという見解もあります。
以上のような問題点はあるものの、地域医療連携推進法人制度が、営利を追求とせずに、医療機関が連携を強化することによって、地域住民への医療提供をスムーズにし、地域創生を目指すことを目標にしていることは意義のあることだと思います。来る2025年に向けて、この目標が達成されることが期待されます。
【参考文献・URL】
・二木立「非営利ホールディングカンパニーから地域医療連携推進法人制度へ」『地域包括ケアと地域医療連携』(勁草書房、2015年)78頁以下。
・石倉康次「地域医療連携推進法人と社会福祉法人制度の改正の問題」住民と自治2015年12月号36頁以下。
・「地域医療連携推進法人制度」が創設 TERUNET2015年11・12月号1頁以下。
・「第7次医療法改正の概要」医業経営情報REPORT2016年2月号5頁以下。
・「動き出す地域医療連携推進法人」日経ヘルスケア2016年7月号53頁以下。
・「地域医療連携推進制度の課題 第1回」Insight-現代社会の処方箋を探る- http://www.hirokoku.jp/wm/insight/2-1.html
・医療法人の事業展開等に関する検討会 厚生労働省HP http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei.html?tid=164077
・「地域医療連携推進法人制度の創設について」厚生労働省http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jjkaigou/dai28/siryou13.pdf
・「地域医療連携推進法人制度の設立に向けた地域での動き」厚生労働省http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jjkaigou/dai35/siryou9.pdf
・山陽新聞digital 2016年4月28日付http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jjkaigou/dai28/siryou13.pdf
・北海道医療大学HP
http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~koho/caress/caress.html
・ZAIKAI SAPPRO ONLINE2016年5月
http://www.zaikaisapporo.co.jp/interview/19853
・西日本新聞2016年3月18日付
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/medical/article/232269
【筆者のつぶやき】
今回は地域医療連携推進法人制度について特集しました。制度創設の背景は、特に地方における人口・患者数の減少によって立ち行かなくなる可能性のある医療機関を連携させて、収益を安定させ、もって地域医療構想にも役立つようにするという考えがあるように思えます。収益力、経営力の強化を重視するならば、当初の構想のように、ホールディングカンパニーという統制力の強い、またアメリカ型の巨大な事業体制度にする方法も考えられますが、本文中でも述べたように、これまでの日本の医療提供体制と適合するどうかは検討の余地があると思います。そういう意味では、今回の制度設計は、日本の医療制度を貫いている考え方は「バランス」である(池上直己、J・C・キャンベル『日本の医療』223頁)という点にも合致する妥当なものと考えます。
地域医療連携推進法人については、上記のような制度の趣旨から、医療機関側の視点から語られることが多いですが、患者の側からするとどのようなメリットがあるのでしょうか。地域医療連携推進法人に参加する医療機関は、相互に連携しつながりを持つことになるので、患者情報を一元化することができます。つまり、カルテの共有なども可能になるので、患者は重複診療を避けることができるというメリットがあるのです。患者が自分の住むそれぞれの地域で、より一層スムーズな治療を受けることできるようになるでしょう。
ただ、その反面、患者の個人情報の共有に伴う情報漏れ等のリスクが生じる可能性があり、患者の同意を得ることや個人情報保護の徹底に取り組むことも求められます。