-はじめに-
医療機関の勤務環境改善に関する改正医療法の施行(平成26年10月1日)により、既に43都道府県で医療勤務環境改善支援センターが設置されるなど、医療分野の「雇用の質」向上への取組みが進められています。
今回の「雇用の質」向上の目標は、医療従事者の定着と働き方改革で、目的は、国民が将来にわたり、質の高い医療サービスを受けることにあります。
そんな中、働きやすい職場環境が整っていれば、労働者のモチベーション(労働意欲)も高まり生産性も向上する。ということで、今、働きやすい魅力ある組織づくりが脚光を浴びています。労働者の働きやすさと働きがいは、組織を考えるうえでのキーワードであり、労働者の労働意欲の維持・向上は、組織の活性化に繋がり、魅力ある組織づくりに不可欠な要素でもあります。
医療機関で働く人たちは、専門職であるが故に次の転職先を見つけやすく、表向きの退職理由は様々ですが、上司や同僚との人間関係への不満や職場の雰囲気などへの不満を理由に離職してしまう傾向があります。そのため、医療現場では相変わらず人材不足が深刻で、日々、看護師などスタッフの採用に追われていると聞きます。
人間は環境に左右されるため、組織という外部環境によって、働き方やパフォーマンスが大きく影響を受けます。つまり「働きやすい」職場環境をつくるには、組織が労働者の労働意欲、「働きがい」を高める条件を整えることが必要となってきます。
そこで本稿では、労働者の「働きやすい」「働きがい」のある組織づくりと人材育成、とりわけリーダー育成のための方策、医療従事者の定着と働き方改革について、考えてみたいと思います。
1.「働きやすい」職場環境、「働きにくい」職場環境
ある大手人材サービス会社が、18歳から60歳の男女(有効回答数:1089人)を対象に、「働きやすい職場」と「働きにくいと感じた職場」についてのアンケートを実施したところ、回答数の多い上位から順に、以下のような結果となりました。(調査時期:2015年3月 複数回答可)
◆「働きやすい」職場環境とは
①同僚や上司との関係が良好
②休暇がとりやすい
③福利厚生が充実している
④フレックス制度の導入など、時間コントロールがしやすい
⑤会社の経営が安定している
⑥離職率が低い
⑦評価基準が公正
⑧社内教育が充実している
◆「働きにくい」職場環境とは
①同僚や上司との関係が良好でない
②休暇がとりにくい
③無駄な残業が多く、時間コントロールができない
④離職率が高い
⑤評価基準が公正でないと感じる
⑥役割分担、管理体制があいまい
⑦会社の経営が不安定
⑧福利厚生が整っていない
これらの結果を見ると、上位3位までで全体の40%以上を占め、一般的に上司や同僚との人間関係が良好で、休暇がとりやすく時間コントロールがしやすい職場が「働きやすい」職場と感じるようです。
しかし、働きやすさの多くは、その職務のもつ特徴や、職場での働き方(働かされ方)に依存します。例えば、労働時間や勤務場所、勤務形態などに働きにくい特徴をもっていたら、働きやすさはもちろん低下するし、人員が必要最低限しかいない職場は、一人ひとりの個別事情に対応する余裕がなくなるため、働きにくさを感じます。
また、最新ビルのきれいなオフィスで、駅から近いなどの立地条件が良く、福利厚生が充実しているなど物理的な働きやすさが確保されていても、仕事が厳しく時間管理され、職場に余裕がなければ、「働きやすい」職場とは感じません。
つまり、働く人自身が働きやすいと感じるかどうか本質的な要素の一つが、仕事の内容と職場環境なのです。
組織として、現状の職場環境を把握し改善するための対応策を考える際、物理的な働きやすさは目に見えるだけに対応しやすいものの、働きにくさは、目に見えないので、対応が難しいものです。
先のアンケート結果で、休暇がとりやすく時間コトロールがしやすいなど、昨今はワークライフバランス(仕事と私生活のバランス)を重視した働きやすさ改革が主張されていますが、医療機関という組織においては、そのような働きやすさを提供するのは、なかなか難しいと思います。また、働きやすさは、ある組織に所属しているという受身の幸せ感に繋がりやすいものの、必ずしも積極的な労働意欲や、仕事のやりがいには繋がりにくいものです。
働きやすさは、働く人の労働意欲やモチベーションを必ずしも高めるわけではありません。つまり、働きやすさだけを求めて、組織に定着する人材を集めても戦力にはならないし、組織の活性化、魅力ある組織づくりはできないということです。
働きやすさだけでは、ヒトは成長しないのです。
では、「働きやすさ」とは異なる「働きがい」を、組織が提供するにはどうすればいいのか、その「働きがい」を高めるには、労働者一人ひとりの自主性も必要となってきます。
次回は、「働きがい」のある魅力ある組織づくりについて考えてみます。