熊本地震の被災者救出にみる「地域包括ケアシステム」の精神~地域社会における認知症高齢者の見守り(2)~

救援ヘリ4月14日の夜、観測史上4度目という震度7の強い地震が、熊本県を襲いました。14日の地震が「前震」で、2日後にそれよりも大きな「本震」が起きるとはいったい誰が予想したでしょうか。
報道によると、「本震」が起きた16日深夜、地域住民による高齢者の見守りが実践され、一人暮らしの女性高齢者が倒壊した家屋から救出されました。
地域住民自身も同様に被災しているにもかかわらず、誰かに言われることなく自然に、同じ地域に住む一人暮らしの高齢者の安否確認に向かった行動は、まさしく「地域包括ケアシステム」の精神といえるでしょう。

そこで今回は、まず、地域包括ケアシステムとは何かを簡単におさらいし、認知症高齢者を含む高齢者の見守りなど、地域包括ケアシステムの取り組みについてみていきます。

◆地域包括ケアシステム内での取り組み
地域包括ケアシステムとは、高齢者が可能な限り日常生活圏域で生活できるような包括的な支援・サービス提供体制を構築することを目指すものです。

出典:http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-5.pdf ↓
地域包括ケア鉢包括的な支援・サービスとは、左の図に示すように、
①    すまいとすまい方
②    生活支援・福祉サービス
③    介護・リハビリテーション
④    医療・看護
⑤    保険・予防
の5つとされます。

このうち、②生活支援・福祉サービスに関しては、一人暮らし、高齢者夫婦のみ世帯の増加、認知症高齢者の増加を踏まえ、様々な生活支援サービス(見守り、配食や財産管理など)を推進することになっています。このように、認知症高齢者の見守りは、地域包括ケアシステムの中での重要な施策とされています。

ただ、地域包括ケアシステムの構築は、はじまったばかりであり、また、地域の実情に応じて構築されるものであるため、現時点では万能な体制を考えるのは困難です。それでも、厚生労働省や各地方自治体は、地域包括ケアシステム内で、その地域の特色に基づいた様々な認知症高齢者の見守りの取り組みを行なっています。

今回はその中でも、以下の2事例について取り上げます。

(ア)福岡県大牟田市の取り組み
福岡県大牟田市は、平成13年に「認知症ケア研究会」を設置後、認知症ケアの質向上に向けて、実践的な活動を開始しました。認知症の見守りに対する自治体の取り組みの中では、先駆的な事例の一つといえます。

具体的には
① 認知症コーディネーター養成講座
 認知症ケアに関わる人材育成を市の予算に計上して実施。
② 地域認知症サポートチームの結成
 認知症専門医と認知症コーディネーターが主体となり結成。地域包括支援センターとも連携
 しながら、個別事例に対してチームとして対応。さらに毎月1回定例カンファレンスを開催。
③ 認知症SOSネットワーク模擬訓練の実施
 認知症の人が道に迷い、自宅に帰れなくなったという想定で、徘徊役が市内を模擬徘徊して
 いる間に、警察や大牟田市から、地域住民や、郵便局、タクシー会社、バス会社等の関係機
 関に情報を伝達し、捜索、保護までの流れを実際に行うもの。各小学校区で実行委員会を
 立ち上げ、それぞれの校区の実情に応じた訓練や情報伝達網の構築を行っている(平成27
 年度まで12回実施)。
などです。

取り組みの成果としては、
① 最初は地域の理解を得るのが難しかったが、現在では模擬訓練が全校区で開催される等
 認知症の人と家族の地域で見守り支える意識づくりが確実に進んでいる。
② 地域住民とケアマネジャー、地域密着型サービスの連携により、認知症高齢者が在宅生
 活を継続できる事例が増えている。
などが挙げられています。

(イ)認知症サポーターキャラバン
平成16年12月、それまで「痴呆」と呼ばれていた症状の呼び名が「認知症」に変わりました。これを機に、厚生労働省は、「認知症を知り、地域をつくる10カ年」の構想の下、様々なキャンペーンをはじめました。このキャンペーンの一環としての取り組みが、認知症サポーターキャラバンであり、具体的には、自治体や企業・団体が共催で行う、認知症サポーター養成講座とキャラバンメイト養成研修です。

認知症サポーターとは、認知症に関する正しい知識と理解を持ち、地域や職域で認知症の人や家族に対してできる範囲での手助けを行う人をいい、キャラバンメイトとは、認知症サポーターを養成する認知症サポーター養成講座の講師を務める人をいいます。
各自治体の取り組みが功を奏し、平成27年12月末の時点で、認知症サポーター数は710万人を突破しています。

ここで、当社が介護認定業務を受託しているA自治体の取り組みをご紹介します。

A自治体は、認知症サポーターキャラバンの一環として、認知症に対する啓蒙活動に取り組み、幅広い活動をしています。その結果、平成26年度における、A自治体の総人口に占める認知症サポーターとキャラバンメイト合計数の割合は、17%を超えました。
また、A自治体は、住民数より多く認知症サポーターを養成することを目的として、出前講座を実施しており、昨年、担当職員の方が当社にて、テレビ会議を利用して、神戸本社、東京支社、大阪支店を繋いで、認知症サポーター養成講座を開催していただきました。

以上、認知症高齢者の見守りに関する各取り組みについてみてきましたが、どの取り組みも一定の成果を上げています。

このうち、福岡県大牟田市における認知症SOSネットワーク模擬訓練は、認知症高齢者役が実際に市内で迷っているという想定の下に行われるので、地域住民をはじめ各関係機関が実際にどのように対応すればよいのかということが現実に体感され、また実施後の問題点の洗い出しも可能となるので、他の自治体にとっても大いに参考になるのではないでしょうか。また、A自治体の出前講座は、認知症の正しい理解と対応を、A自治体内のみならず、他の地域にも広めようというもので、すばらしい取り組みであると思います。
このような模擬訓練や出前講座によって、地域社会における見守りの意識が根付いていれば、認知症訴訟のような事案は防げていたかもしれません。

次に、地域包括ケアシステム構築の費用負担について触れたいと思います。

◆「互助」と「共助」への展望
地域包括ケア研究会による平成25年度報告書によると、地域包括ケアシステムは、
誰が費用負担を行うのかという視点から、次の4点に整理しています。

① 自助…地域住民自らが負担するもの
② 共助…リスクを共有する仲間同士(被保険者)が負担し、制度として整っているもの
    (例えば介護保険や医療保険など)
③ 互助…相互に支えあっている点で共助と共通するが、制度的に裏付けられていない
    自発的なもの(例えばボランティアなど)
④ 公助…公=税による負担

上記の分類によると、福岡県大牟田市の認知症SOSネットワーク模擬訓練は、互助の側面が大きいと
いえるでしょうし、A自治体の取り組みは、公助と互助の2つの側面があるといえます。

さらに、認知症訴訟をきっかけに、大手保険会社は、重度の認知症患者が加害者になった場合、その家族が損害賠償責任を負うリスクに備えた保険の対応に動きはじめました。これは共助の側面が大きいといえます。

高齢社会を迎え、老老介護の現状の下で、自助や公助のみでの取り組みには限界があります。今後は、互助や共助での取り組みが中心となっていくでしょう。
認知症訴訟の最高裁判決が、在宅介護をしている家族だからといって損害賠償を負うものではないとしたことも、認知症高齢者の介護を家族のみが負担するのではなく、地域社会全体で支えることが必要であることを示唆したものであるということもできるでしょう。つまり、互助と共助による取り組みによって、認知症高齢者の介護を支えなければならないということです。

今後、地域包括ケアシステムの下で、互助と共助を中心とした認知症高齢者の見守り体制の構築が進むことが期待されます。

さいごに、今回の熊本地震で亡くなられた方々にお悔やみを申し上げるとともに、被災された方々に心からお見舞いを申し上げます。又、被災地においては一日も早い復旧を強くお祈り申し上げます。