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今回は、解剖の種類とAi(Autopsy imaging)の特徴について解説します。
3.解剖の種類と特徴
◆解剖の種類
解剖には大きくわけて、系統解剖、法医解剖、病理解剖の三つがあります。同じ解剖と名がついていますが、それぞれ目的が違います。
系統解剖は人体の構造等を習得するために、医系大学の解剖学で、検体による解剖実習として行われる解剖のことをいい、法医解剖は、司法解剖と行政解剖(広義)のことをいいます。
行政解剖はさらに、監察医制度のある地域で監察医によって強制的に行われる監察医解剖(狭義の行政解剖)と、監察医制度のない地域で行われている承諾解剖に区分されます。
監察医制度とは「飢餓、栄養失調、伝染病等により死亡が続出していた終戦直後において、これらの死因が適切に把握されず対策にも欠けていため、公衆衛生の向上を目的として、連合軍総司令部(GHQ)が、国内の主要都市に監察医を置くことを日本政府に命令したことにより、昭和22年に創設された制度」[1] です。
現在は東京23区・大阪市・名古屋市・横浜市・神戸市の5都市で運用されていますが、これらの地域以外は同じ目的であっても、行政解剖(狭義)ではなく承諾解剖となります。
病理解剖は、病死者を遺族の承諾のもと病理医が、患者の死後すぐに大学病院あるいは基準を満たす病院で行う解剖のことで、「剖検」ともいいます。死因をはじめ病変の本態、種類、程度や治療の効果および影響などを解明するために行われます。
◆司法解剖と行政解剖の違い
司法解剖とは、犯罪の疑いのある死体について裁判上の鑑定のために行われる解剖をいい、行政解剖とは、犯罪の疑いはないが死因が不明確な不自然死とか異状死体など、監察医が行う解剖をいいます。司法解剖も行政解剖も、検察官などによる司法検視や警察官による行政検視の後に行われるので、遺族の承諾は不要です。
司法解剖・行政解剖は、変死体(異状死体)の死因究明や死亡時刻の推定等が主たる目的で、法律に基づいて行われるので、強制解剖といいます。
一方、病理解剖も死体解剖保存法第7条[2] に基づいて行われるのですが、遺族の承諾を必要とするため、承諾解剖や病理解剖を任意解剖といいます。
遺族からすれば「これ以上遺体を傷つけたくない」との思いから解剖を拒否し、結局死因不明のまま荼毘に付されることも多いのが現状です。もちろん、解剖をすれば全てが分かるわけではありません。中には最後まで亡くなった原因が掴めないこともあります。その解剖の一助となるのがAiなのです。続いて、Aiの特徴について述べます。
4.死亡時画像診断Autopsy imaging(Ai)の特徴と事故調査制度における活用
死亡時画像診断(Ai)とは、遺体をCTやMRIで撮影、読影することで、体表のみではわからない遺体内部の情報を得ることを指し、次のような特徴が挙げられます。
◆Aiの主な特徴
・侵襲性がない
・死亡直後に実施できる
・生前の画像と比較できる
・多くの施設で実施可能
・第三者による読影が可能
・客観性が高い
・解剖より費用が安価
・解剖に際して当りをつけて臨める
以上のような特徴から、死亡診断の精度を高める検査と位置づけられ、院内事故調査で原因究明を行う際の手段の1つとして、今Aiが注目されています。
前掲の日経メディカルが行った(一財)Ai情報センター代表理事の山本正二医師へのインタビュー[3] によれば
「既に心停止している患者を撮影するため、造影剤は使用できないほか、通常のCT画像とは異なる所見を示すことがあるので、Ai特有の読影知識が必要」となりますが、「解剖の前にAiを撮影することで客観的な情報が得られ、死因に当りを付けることができる」ため、とりわけ「急変な死亡症例などはAiを撮影しておく」体制が大切だそうです。また、一般的に病理解剖では頭部まで解剖するケースは少ないので「Aiを撮影するのであれば証拠保全のためにも全身を撮影」することが望ましいようです。
◆病理解剖及びAiの説明と同意
患者が亡くなった場合、主治医や当該診療科責任者などから遺族に病理解剖やAiを実施することによって、亡くなった原因や、その原因と診療行為との関連性などが推測できる可能性があることを説明します。
その説明の際には、病理解剖にかかる時間や、標本作成と診断を含め最終報告書作成や報告までにかかる時間、臓器や標本の保存、返還の希望の有無などを丁寧に行うことが重要です。しかし、前述のように、解剖に対する否定的なイメージから、なかなか同意を得ることができないという現状があります。
病理解剖は、法で「遺族の承諾」を求めている以上、遺族の同意がないと実施できませんが、Aiは患者又は遺族の同意があることが望ましいものの、同意なく実施したとしても違法であるとまでは言えません。なぜなら、死亡診断の精度を高める検査であり、かつ、患者及び遺族に不利益がないからです。したがって、病理解剖の同意を得られない場合は、Aiだけでも実施することが望まれます。
ただ、無用の民事訴訟などのリスクを避けるため、入院時の同意書などに「Ai検査の実施」を盛り込み、事前に患者から同意を得ることも必要と思われます。
また、遺体の組織は時間とともに変化し、解剖が実施できるのは火葬までの短い間となるため、より迅速な対応が求められます。病理解剖までの遺体保存方法や、家族、遺族への同意が得られやすい説明等、マニュアルを作成しておくことも必要でしょう。
*医療事故調査制度に関する詳細は、日本医療安全調査機構のホームページをご覧下さい。
[1]http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201510/544237.html
[2] 死体の解剖をしようとする者は、その遺族の承諾を受けなければならない。
[3] http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/dl/s0312-8c_0055.pdf