派遣先が知っておきたい労働者派遣法2015年改正Q&A解説(4・完)

<派遣労働者の処遇改善に関するもの>

 【派遣労働者のキャリアアップ】
Q:「派遣労働者の計画的な教育訓練やキャリアアップのための措置を行わなければならない」とのことですが、派遣先はどのようなことをしなければならないのでしょうか。

A:派遣労働者のキャリアアップ措置については、まず、派遣元に、計画的な教育訓練や希望者に対するキャリアコンサルティングを受けさせることなど細かな規定が定められました。一方で、派遣先にも、
①派遣先会社における教育訓練を実施することに配慮する義務
②派遣元に対して派遣労働者の能力に関する情報提供をすることに努力する義務
③派遣元の教育訓練を派遣労働者が受けることができるよう可能な限り協力することなどの義務が課されています。

 【派遣労働者の均衡待遇の推進】
Q:派遣労働者の均衡待遇の一環として、派遣労働者は、派遣先の福利厚生施設を利用できるとのことですが、具体的にはどのようなものが利用できるのですか。

 A:派遣元と派遣先との均衡待遇推進のための制度として、派遣労働者は、派遣先の福利厚生施設を利用することができます。この福利厚生施設とは、給食施設、休憩室、更衣室のことをいいます。

4 おわりに
 以上、医療機関が派遣先として知っておくべき点について述べてきました。その中でも特に気を付けておくべきことは、3の【個人単位の期間制限‐課の変更‐】や【期間制限の起算点】の箇所に関連する有期雇用派遣労働者の就労期間の管理であると考えます。派遣労働者の就労期間の管理を正確に行っていなければ、新たな期間制限を超えて派遣を受け入れるなどの法律違反の派遣状態が生じるおそれがあります。そうなれば、労働契約申込みみなし制度が適用されて、派遣労働者から直接雇用の申込みがあれば、派遣先はその派遣労働者を直接雇用しなければならなくなります。派遣先は、有期雇用派遣労働者の受入日と抵触日を正確に把握しておくことが必要になります。
 また3の【クーリング期間】の箇所に関連する、クーリング期間の濫用となるような行為をすると、やはり法律違反の派遣とされて労働契約申込みみなし制度が適用されるおそれがあるので注意が必要です。
 このような有期雇用派遣労働者の受入れのリスクを勘案すると、今後は派遣元から無期雇用派遣労働者を受入れることが主流になるのかもしれません。
 今回の派遣法の改正に関しては、派遣労働者の保護を強化したと評価する意見がある反面、実は常用代替防止の原則を骨抜きにし、派遣労働者にとって酷なものであるとして改正内容に反対する意見もあります。私たち派遣事業に関わる立場においては、派遣労働者として働いている従事者と派遣労働者を必要としている医療機関の双方の思いが希望に満たされるように、より一層の取り組みを求められています。

 【参考文献・URL】
 ・厚生労働省・都道府県労働局『平成27年労働者派遣法改正法の概要』
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000098917.pdf#search=’%E5%B9%B3%E6%88%9027%E5%B9%B4%E5%8A%B4%E5%83%8D%E8%80%85%E6%B4%BE%E9%81%A3%E6%B3%95%E6%94%B9%E6%AD%A3%E6%B3%95%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81′
・厚生労働省HP「平成27年労働者派遣法の改正について」http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386.html
・法学セミナーNo.731「[特集]派遣労働社会」(日本評論社、2015年)
上記に加え、弁護士法人天満法律事務所主催の「改正労働者派遣法セミナー」における講演・資料を参考にさせていただきました。

【筆者のつぶやき】
 派遣社員として働いている人が、派遣先の職場において、幸せ・満足を感じて働くことは、熟練した派遣社員に期間の許す限り働いてもらうことができる点で、派遣先にとってもとても有益なことと思います。その点で、派遣社員が派遣先において、どのような思いや感じ方を持って日々働いているかを知ることができるとすれば、派遣社員の職場への定着率を上げるための対応を考えることもできるでしょう。
 日本データーでは、医療機関で派遣社員として働いている職員の満足度調査や、調査後のフォローアップ研修などにも取り組んでいます。今回の派遣法改正により、派遣労働者数の増加が予想される中、派遣元にとって、派遣社員を派遣すればそれで終わりという段階を超えた取り組みが要請される時代がまさに到来したといえるのではないでしょうか。

 【編集後記】
 2015年は戦後70年という節目の年であり、国内では戦後続いてきた国家運営の枠組みを変えようという動きが目立った年であったと思います。派遣法改正をめぐる一連の議論もこの動きの中に位置付けられる出来事だといえるでしょう。新たな制度の下で、どのように対応すればよいのかについて、本号の記事が、少しでもお役に立てればと思います。本年も引き続きメディカルタイムズをご愛顧賜りますようお願い申し上げます。

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