派遣社員の制度が変わる!?~2015年労働者派遣法改正にどう対応すべきか~(3・完)

4 2015年改正~何がどう変わろうとしているのか
 2012年改正法が成立した際、派遣労働者や派遣元・派遣先企業に分かりやすい制度となるよう、速やかに見直しの検討を開始すること等の配慮事項が付きました。これに伴い、労働者派遣法改正の検討が開始され、2014年に二度改正案が政府与党によって国会に提出されましたが、いずれも廃案になりました。2015年3月13日に改めて改正案が政府与党により国会に提出され、審議の結果6月19日に衆議院を通過し、現在参議院で審議中です。
 では、今回の改正では何がどう変わろうとしているのでしょうか。

 (1)特定労働者派遣事業の廃止
 ①現行の制度について
 現行の制度において、事業として営むことができる労働者派遣事業には、特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業の二種類があります。   
 特定労働者派遣事業は、その事業の派遣労働者が常時雇用される者のみである場合をいいます。このとき派遣労働者は常時雇用され身分の保護が図られているという理由で、特定労働者派遣事業の場合は、届出をすれば事業を営むことができます
 一般労働者派遣事業は、特定労働者派遣事業に該当するもの以外の場合をいいます。通常は、派遣労働を希望する労働者が派遣元企業に登録をし、その派遣労働者が就労を予定する期間中のみ派遣元と労働契約を結びます。このときは、派遣労働者の身分の保護が弱いので、一般労働者派遣事業の場合は、所定の要件を満たさなければ事業を営むことができないという許可制が採用されました。

 ②改正後の制度について
 今回の改正では、特定労働者派遣事業が廃止されることが決まりました。理由は、特定労働者派遣事業者でありながら、一般労働者派遣事業を営むなど悪質な例が見られたこと等が挙げられます。つまり、常時雇用者となり得ない短期間の派遣就労予定に対しても、その期間雇用者を派遣配置するという事例が散見されたからです。今後は、すべての労働者派遣事業を営むには、厚生労働省の許可を受けることが必要になります。所定の要件を満たさなければ許可がおりないのはもちろん、初めは要件を満たしていても後に満たさなくなれば、許可が取り消されることもあるということになります。

 (2)新たな期間制限~原則3年縛り
 次に、前述した専門26業務と一般的業務の区別が廃止されました。これに伴い、有期雇用派遣労働者に関して、上記区別による派遣期間の設定も廃止されます。現場において担当業務が専門26業務か一般的業務か明確に区別していない傾向が見られ、実際問題として区別が困難であるということが理由です。
 なお、無期雇用派遣労働者については、期間制限がありません。
 以下では、有期派遣労働者に関する、新しい期間制限の仕組みをみていきます。

 ①個人単位の期間制限~派遣される「人」に着目した場合
 
まず、派遣労働者個人に注目した場合、派遣先における同一の組織単位(いわゆる課)における、同一の有期雇用派遣労働者の受入れは、3年が上限となります。つまり、抵触日は3年後になり、ある一人の有期雇用派遣労働者を3年以上続けて同じ課で働かせることはできなくなるのです。これは、派遣労働の固定化を防止するために採用されました。ちなみに、組織単位(課)が変わったり、有期雇用派遣労働者を違う人に代えたりした場合は、3年を超えて受入れをしてもよいことになります(以下の図参照)。
個人単位の期間制限表

 所属する課を変われば抵触日後もPを派遣労働者として受け入れることができます。

 

②事業所単位の期間制限~派遣先の「会社」に着目した場合
 
次に、派遣先の会社に着目した期間制限も採用されました。この場合、同一の派遣先の事業所における、有期雇用派遣労働者の受入れは、3年が上限となります。これは、ある一つの会社が有期雇用派遣労働者の受入れを最初にある時点から開始した(ここが起算点になります)として、その後何人の労働者が受け入れられたとしても、起算点から3年以上は継続して受入れが原則としてできないということです。
 3年を超えて受入れる場合には、過半数労働組合(従業員の過半数が所属する労働組合)などからの意見聴取をした上で、さらに3年間の受入れが可能となります。過半数労働組合から反対意見があった場合には、対応方針等の説明義務が派遣先会社に課されます。その後3年ごとの取り扱いも同様です(以下の図参照)。

 事業所単位の期間制限表①過半数労働組合等の意見聴取をすれば、Aの後に続けてBを上限3年間で受入れることができます。
②Cの場合、個人単位の抵触日前に事業所単位の抵触日が来ますが、過半数労働組合等の意見聴取をすれば、個人単位の抵触日までの受入れが可能になります。
③過半数労働組合等の意見聴取をしなかった場合、Dを、個人単位の抵触日の満了前でも、事業所単位の抵触日以降に受入れることはできません。

 

 なお、この新たな期間制限の設定に伴い、2003年改正で加えられた、一定の場合に派遣先が派遣労働者に対し直接雇用の申込みを行う制度は廃止されます。

 (3)派遣労働者の均衡待遇の推進
 また、派遣労働者の均衡待遇の推進に関する規定が盛り込まれました。派遣労働者の均衡待遇とは、正社員をはじめとする通常の労働者と派遣労働者間の待遇の問題につき、同一職種の業務であっても、業務内容や業務時間に応じた取扱いを許し、その上で通常の労働者と派遣労働者間のバランスに配慮するということです。具体的には①派遣元に対し、派遣労働者の均衡待遇の際に考慮した内容の説明義務を課す規定の設定②派遣先に対しても、同一職種の業務に従事する派遣先の労働者の賃金に関する情報提供、教育訓練、福利厚生の利用に関する配慮義務を課す規定が設定されました。
 なお、今回の改正における派遣労働者の均衡待遇の推進に関する規定のみでは不十分であるという観点から、同一労働同一賃金推進法(正式名称:労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律)が提案され、修正の後、労働者派遣法とともに衆議院を通過して参議院で審議中です。この法律は、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策を重点的に推進することなどを目的とするものです。

 (4)派遣労働者のキャリアアップ
 さらに、派遣労働者の中で、正社員になりたいという希望を有する人の意向を尊重するため、派遣労働者のキャリアアップを図る制度が規定されました。主なものは以下の通りです。まず①派遣元に対し、計画的な教育訓練やキャリア・コンサルティングが義務付けられました。派遣元は、実施内容を厚生労働省に毎年報告しなければなりません。次に②労働者派遣事業を営む許可要件の一つに、「キャリア支援制度を有する」という項目が追加されました。加えて③派遣先に対する派遣労働者の能力に関する情報提供の努力義務が加わりました。

 (5)派遣元に対する派遣労働者の雇用安定措置の義務付け(派遣契約終了時)
 この項目は、派遣労働者が、派遣期間の上限で雇止めになるケースが多く、雇用の継続が保証されないことを考慮して、派遣元に対する義務として規定されたものです。具体的には、①派遣先への直接雇用の依頼②新たな派遣先の提供③派遣元での無期雇用などが挙げられます。

 5 おわりに
 さいごに、今回の労働者派遣法の改正が、派遣社員を受け入れている事業体にどのような影響を与えるかについてみておきましょう。以下は一般論ですが、派遣社員として職員を受け入れている医療機関にもあてはまると思います。
 まず、4(2)で述べたように、新たな派遣期間制限の採用に伴い、原則3年で派遣労働者である職員は同一の課においては、受入れの継続ができなくなります。このことへの対応策としては、①派遣元において無期雇用として契約している派遣労働者を雇い入れる②3年が過ぎた時点で派遣労働者である職員を直接雇用するということが考えられます。また①②の対応をとらず、新しく派遣労働者として職員を雇い入れるという判断をした場合は、業務内容の引継ぎ等がスムーズに行えるような体制を考慮しておくことも大事でしょう。また、4(3)で述べた、派遣労働者である職員と通常の労働者である職員の均衡待遇について、派遣先としての配慮義務にも注意を払わなければなりません。さらに、労働契約申込みみなし制度が施行された場合は、この制度が発動されて直接雇用の申込みをしたものとみなされるような違法派遣の状態がないかについても注意が必要でしょう。
 
労働者派遣法の改正問題は、現代社会における日本の労働関係の枠組みをどのように作っていくのかということにも関係する重要かつ難しい問題です。今後もしっかりと注目していく必要があると思います。

 【参考文献】
・和田肇ほか編『労働者派遣法と法』(日本評論社、2013年)
・楢木大輔「派遣労働者の待遇確保のための方策-労働者派遣法改正案の審議に際して-」立法と調査No.364 2015年5月号(参議院事務局企画調整室)
・岡村美保子「労働者派遣法改正問題」レファレンス2009年10月号(国立国会図書館)
・久松事務所HP 労働者派遣法勉強室
http://www.hisamatsu-sr.com/haken/rekisi.htm
・厚生労働省HP
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386.html(労働者派遣法の見直しについて)
・衆議院HP
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/0097_l.htm(厚生労働委員会会議録)
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/0001_l.htm(本会議 会議録)

【筆者のつぶやき】
 本文でもみたように、今回の労働者派遣法改正案によって、労働者派遣事業を営もうとするすべての業者は厚生労働省の許可が必要となりました。巷では、許可要件を満たすことができない業者は派遣事業を営むことができなくなり、その意味では大手業者に有利であるなどとの声も聞かれます。確かに、許可が必須になった上、派遣労働者の雇用安定措置義務が新設されたことなどは、派遣元業者にとっては負担になる面は否めません。一方派遣先にとっては、過半数労働組合等の意見聴取をすれば、人を代えて派遣受け入れを続けていくことができるという点が、派遣労働者を活用しやすくなり、派遣労働者受入れを促進することにつながるでしょう。改正法が成立すれば、人材派遣業界の競争が激化することが予想されます。派遣先にとっては、いかに質の良い派遣労働者を雇用している派遣元業者を選定するかということが、ますます重要になっていくと思います。

 【編集後記】
 今回のテーマとして労働者派遣法改正について取り上げましたが、医療機関が労働者派遣法改正によって受ける影響は大きいと思います。本稿では労働者派遣法が持つ根本的な考え方と、時代によって労働者派遣法がどのように変わってきたのかについて中心に述べた上で、今回の改正で留意しておかなければならないことを指摘しました。皆様方のお役にたてば幸いです。
 立秋も過ぎ、暦の上ではもう秋ですが、まだまだが残暑が続きます。体調など崩されぬよう、どうぞお元気でお過ごしください。