1 はじめに
医療機関においては、医師、看護師をはじめコメディカル、事務職員等様々な職種の方が勤務しており、その雇用形態も昨今では、正職員のみならず常勤、非常勤、派遣、アルバイトなど多岐にわたります。このうち、派遣労働者として働いている人々に関連して、今年2015年に労働者派遣法の改正案が国会に提出されました。現在国会において審議中ですが、改正法が成立すると、これまでの運用が大きく変化することになります。派遣労働者を雇っている医療機関においても、改正の内容及び改正による影響について確認しておくことは大変重要です。
そこで、今回は、労働者派遣法の改正をテーマとして取り上げることとしました。まず、労働者派遣法はどのような法律で何について規定しているのかについて確認します。次に、労働者派遣法制定の背景とその後の改正の経緯を概観します。そして、2015年の労働者派遣法改正で何がどう変わるのかということを確認し、最後に、今回の改正が与える影響と注意点について触れたいと思います。
2 労働者派遣法とは
労働者派遣法は、正式名称を「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護に関する法律」といいます。これは、労働者派遣事業に関する決まりを定めた法律です。名称が長いので、本稿では「労働者派遣法」と記述します。
(1)労働者派遣事業とは
例えば、自院で事務職員を派遣労働者として雇いたいと思い、人材派遣会社に依頼する場合を考えてみます。
このとき、人材派遣会社(派遣元会社)は、自分の会社で雇っている社員(派遣労働者)を、自社との雇用関係はそのままに、医療機関(派遣先会社)に派遣して労働に従事させることになります。この人材派遣会社が営む事業が労働者派遣事業です。
下の図で示すように①人材派遣会社と医療機関は、労働者派遣契約を結びます。そして②人材派遣会社と派遣社員は労働契約を結びます。③派遣されてきた派遣労働者は、医療機関の指揮命令に従わなければなりません。このように、労働者派遣事業においては、人材派遣会社、医療機関、派遣労働者という3つの対象が関係者となります。
(2)労働者派遣事業を採用する利点
では、なぜ労働者派遣事業は利用されるのでしょうか。
まず、派遣先企業側は、①自分の会社が取り扱う業務のうち、主要なものではなく周辺的な業務に関しては、派遣労働者を雇用するほうが、正社員を雇うよりコストの削減に役立つこと②より専門性が高い業務に関しては、自分の会社で養成することができないこと等の理由から派遣労働者を採用する利点があります。また、派遣労働者にとっても、自らの働き方の希望に合わせて正社員としてよりも派遣労働者として働くことを選ぶなど、多様な働き方を選択することができるという利点があります。これらの利点があるため、労働者派遣事業は社会に広く受け入れられてきました。
次回は、労働者派遣法はどのような理由で作られ、時代とともにどのように変化を遂げてきたのかについてみていきます。