混合診療全面解禁をめぐる議論

国民医療費との関係

まず、我が国の保険方式は、相互扶助の精神に基づくシステムで、医療リスクの高い高齢者をリスクの低い若年層が支えるという考え方が前提としてあります。

高齢化社会は労働人口の減少をもたらし、医療リスクを高めます。つまり、被保険者が収める保険料の総額は年々伸び悩む一方で、医療の高度化などで国民医療費は年々増え続けていくことを示します。同じ病気でも20~30年前の治療内容と比較して、医療技術が高度化し有効な治療法が多く実用化されていることから、莫大な治療費が必要となってきました。

しかし、現状において、これ以上保険料を上げることは非常に難しく、仮に保険料を上げても、今以上に未納・滞納者が増えることになりかねません。現に、国保被保険者と生活保護者の間に大きなギャップがあるため、国保の保険料が支払えず、かといって生活保護の受給対象にならないため、医療が受けられない人が急増している状況が問題になっているのも事実です。したがって、医療費は、我々国民が収める保険料と窓口負担で賄える額を大幅に超え、費用の4割近くは公費を投入しているのが現状です。

医療費の総枠は、政府が主導になって決めます。総枠が決まった後に、中央社会医療保険協議会において個別の医療に対する単価(診療報酬)が決まりますが、2年ごとの診療報酬改定のたびに、改定率をマイナスにしたい財務省とプラスにしたい厚生労働省の綱引きが行われているのは周知のとおりです。

このように公的保険財政が常に逼迫していることから、財務省は医療費を削減するため、公的医療保険の給付範囲を狭めようとしています。

具体的には、将来、保険対象となることが前提である「評価療養」を保険対象としないことで、利幅の大きいまま利益を上げようとすること、あるいは、住居費・食費相当分を保険外として「選定療養」の枠を拡げるなどが考えられます。つまり、TPP交渉参加云々とは直接関係なくても、すでに財政問題という国内要因から、混合診療の適応を広げようとしていることです。

では、混合診療が全面解禁になったら、どうなるのでしょうか。

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混合診療全面解禁になったら

TPPは、直接的には医療分野に言及していません。しかし、TPP交渉参加により、医薬品や医療機器流通の規制緩和を求めてきたり、日本の公的医療保険制度そのものが、海外の保険会社の参入障壁とされる可能性があります。

つまり、アメリカ等から、混合診療全面解禁の圧力が高まるのではないか、ということが危惧されているのです。

前述のように、保険診療の診療報酬(個別の医療に対する単価)は、中央社会医療保険協議会において、医療側、支払側(保険者)、公益委員(一般人)の代表が討議して決める公定価格です。つまり、同じ医療行為なら、基本的に全国どこでも同じ診療報酬です。

これが、国民が安心して医療を受けられる基盤になっており、我が国の医療保険制度の利点なのですが、一方で、保険診療だけでは病院経営が厳しいので自由診療で増収したいと考える病院も少なくないと思われます。

つまり、「公定価格の公的医療保険より、任意に値決めできる利益率のよい自由診療を志向する」病院が増えてくるのは避けられないでしょう。

また、私的医療保険は、抗がん剤などの高額医薬品の使用や高度先進医療など「自由診療を対象としたときに金額が大きくなりビジネスとして成立」すると考えられます。混合診療が解禁されて、自由診療の範囲が拡大されれば、患者の私的保険加入が促進され、保険会社のビジネスチャンスが広がることにつながります。

と、いうことは、混合診療が全面解禁されれば、病院や医薬品・医療機器メーカーは利益率のよい自由診療に力をいれることでしょう。その結果、現在の公的保険の縮小化が進み、次第に保険診療を受けたくても、提供する医療機関が少なくなるかもしれません。

いわゆる「経済格差が医療格差」となり、国民皆保険制度の崩壊を招いてしまうのではないか、ということが懸念されるのです。