医療勤務環境改善システムの概略-医療分野の「雇用の質」向上プロジェクトー

行政

それでは、医療従事者の勤務環境整備について、行政はどのように取り組むのか、医療分野の「雇用の質」向上プロジェクトの考え方と、医療勤務環境改善システムの概略について、学会に登壇した厚生労働省医政局総務課医療労働企画官石川賢司氏の解説を以下に紹介します。

◆「雇用の質」向上プロジェクトの考え方
・医療分野の勤務環境改善とは、国からの強制・規制では 
 なく、都道府県が、各地域の特性に応じて参加型改善の
 取り組みを支援するというもの。
・従来、労働行政の観点から行われてきたが、医療者の確
 保対策と一体で解決する必要性があるため、法改正により国が都道府県の主体的な関与を求めた。

◆医療分野の勤務環境改善システムの概略
①  目標は定着と働き方改革

・働き続けられる勤務環境の改善。
・再就職支援。

②  自主的な勤務環境改善活動を促進するシステムの構築と普及
・医療機関自らが、厚労省が4月に公表した「手引書」[1]) や「指針」[2]) を活用し、PDCAサイク
 ルを回して勤務環境改善に取り組むこと。
・都道府県は、勤務環境改善に取り組む医療機関を支援するための具体的な年次計画を策
 定すること。

③ ワンストップの相談支援体制の構築
・医療機関の取り組みをサポートするため都道府県ごとに、「医療勤務環境支援センター」(以
 下、「支援センター」)を設置。
・「支援センター」を核とした様々な専門家による医療機関へのチーム支援。
・「支援センター」がハブ機能を果たすこと。

「支援センター」は、医療機関のニーズに応じて医業経営コンサルタントによる「医業分野の支援」と、社会保険労務士による「労務管理の支援」を一体的に提供する拠点として整備されることになっており、既に7都県で設置しています。
また、「手引書」は、看護師の主な離職理由から、以下の具体的な4軸で作成され、医療機関が自ら勤務環境改善に取り組む方針を表明する重要性や、現状を把握した上で目指すべき目標に向けて計画を策定し、具体的な取り組みを進める際のポイントなどを示しているので、是非ご活用ください。

◆改善領域(雇用の質向上)に共通する4軸
①働き方や休み方(ワークライフバランス)
  時間外労働削減、夜勤負担軽減、休暇取得促進…等
②職員の健康支援
 メンタルヘルス対策、健康チェック、腰痛・感染症対策…等
③働きやすさ確保(実効性の確保)
 院内保育所の整備、人事・給与制度、いじめ・ハラスメント対策…等
④働きがいの向上
 専門職としてのキャリア形成支援、職員満足度向上(モチベーションアップ)等

◆「雇用の質向上」こそが「医療の質向上」
医療政策を決める場所は、とかく現場感覚と乖離した議論が多く、これまで医療現場の声が、制度や政策に反映されないまま、医師達の過酷な労働環境をはじめ医療現場での様々な課題は放置されたままでした。
医療提供側が倒れてしまえば、システムがあっても成り立ちません。行政の論理だけでなく、現場の声を反映させた施策が必要です。医療現場で働く人々の声を、制度政策を決める場所に訴えていかなくては「病院経営」に変革をもたらすことはできません。

職員満足

「よい医療」は「よい病院経営」がなくては成り立ちません。「よい病院経営」を成り立たせるには、患者から選ばれる病院になることです。
患者から選ばれる病院になるためには、医療を取り巻く環境変化を先取りし、職員にとって魅力ある病院(「辞めない」・「集まる」病院)にすること、組織の活性化を企て「雇用の質向上」を図ることこそが「医療の質向上」に繋がると考えます。

 

勤務環境改善システムは既に動き出しています。
機能するのかどうか、各自治体の手腕に期待したいものです。


 

[1]) 医療分野の『雇用の質』向上のための勤務環境改善マネジメントシステム導入の手引き

[2]) 医療勤務環境改善マネジメントシステムに関する指針(H26.9.26厚労省告示376号)