動き出した勤務環境改善システムー医療分野の「雇用の質」向上プロジェクトー

医療機関-はじめに-
10月中旬、第18回日本医業経営コンサルタント学会東京大会に参加して来ました。学会のテーマは「医の原点をささえる」というもので、日本医師会横倉会長の特別講演の後、厚生労働省から日本病院会、日本看護協会との連携シンポジウムは、専ら、医療従事者の「勤務環境改善とワークライフバランス」についてでした。
医療従事者の労働環境を改善することが、医療の質を向上させ、最終的には患者の安全につながり、ひいては、「医の原点をささえる」ことなります。

今回の改正医療法(10月1日施行)により始まった病床機能報告制度と同時に、勤務環境改善に取り組むことが、医療機関の管理者の努力義務となりました。また、同様に、各都道府県の努力義務として、勤務環境改善に取り組む医療機関を支援するための「医療勤務環境改善支援センター」を設置する事業が開始されました。
同法では、都道府県の「努力義務」として規定されていますが、既に7都県(福岡県・岐阜県・三重県・滋賀県・静岡県・東京都・奈良県)では、10月1日から支援センターを設置しており、厚生労働省は、可能な限り、その他の道府県にも2014年度中の設置を目指すよう促しています。

本稿は、学会での報告を基に、医療法に勤務環境改善システムの法的根拠が出来上がった背景と経緯を中心に概観するとともに、医療従事者の働き方改革について、考えてみたいと思います。

◆背景と経緯
何年か前、「立ち去り型サボタージュ」という言葉が、メディアや医療界を賑わせたのは記憶に新しいのではないかと思います。医療現場での、労働基準法以下の過酷な労働環境(当直や夜勤・交代制勤務)と過大な責任、患者の権利意識の高まりから多発するクレーム等に我慢できなくなり、医師、特に若手の勤務医や看護師が労働意欲を失い、医療の現場から立ち去り、逃げ出しているということを指したもので、このままでは、日本の医療は崩壊するという本が出版されました。
また、社会保険労務士会総合研究機構発行の「社労士総研 研究プロジェクト報告書(平成24年)医療現場の労務管理に関する研究」によると、労働基準監督署(以下、「労基署」という)の病院に対する是正勧告は、労働基準法(以下、「労基法」という)32条(労働時間を定めた規定)、37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金を定めた規定)違反に関するものが圧倒的に多く、病院が行なう勤務医の労働時間管理には大きな問題があると報告されています。
具体的には、医師の「当直」と称する夜勤業務が実態に反して労働時間として扱われておらず、割増賃金が支払われていないこと(労基法37条違反)、そして、そのまま日勤に入るという状況、つまり「日勤⇒夜勤⇒日勤」という32時間を超える連続した長時間勤務(労基法32条違反)が恒常化している実態などが浮かび上がり、憂慮すべき問題であると指摘しています。

では、医療現場の過酷な労働環境とはどういう状況なのか、医療をめぐる状況について概観してみましょう。

◆医療の現場をめぐる状況
入院患者や救急患者など、患者は24時間365日存在します。そういった入院患者や救急患者への対応など、心身の緊張を伴う長時間労働、医師の当直や、看護師の夜勤・交代制勤務など医療現場では非常に厳しい勤務環境が指摘されています。
2000年前後から約15年間に医療分野で起こった出来事、メディアが取り上げた大きな医療事故の例をみると、以下の表1に示す通り、その背景には、過労死や過労自殺するほど、過重と言わざるを得ない日本の異常な医療現場での労働実態、勤務環境に問題があることがわかります。

表1

医療機関で働く職員の半数は看護師です。
次回は、看護師の労働環境の実態についてみていきます。