医療法改正の流れと第六次医療法改正のポイントを探るー医療制度改革総まとめー

医療法改正では、医療法第一次改正の契機となった富士見産婦人科事件とは、どんな事件だったのか、その概要をみてみましょう。
(以下、Wikipedia等、他、複数サイトを参照してまとめた概要です。)

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富士見産婦人科事件とは、埼玉県内にある富士見産婦人科の理事長(病院開設者で医師免許も医学的知見もほとんどない医療無資格者)が、超音波診断装置を操作して健康な妊婦に対して「子宮ガン、子宮筋腫」などの病名をあげ「あなたの卵巣は腐りかけている。ただちに手術しなければ危ない」などと診断して、診察に来る患者を次々に入院させ不要な手術をおこない、長年にわたり正々堂々と何人もの正常な子宮・卵巣摘出手術を繰り返した、という事件です。
手術そのものは、同病院の院長である理事長の妻(医師)と他5人の医師が執刀していましたが、左右の卵巣を一度に切除するなど、一般の病院では考えられない手術を行っていました。しかも同病院は分娩手術以外の手術が2年間で1152件と同規模の他病院と比較しても異常に多い乱診・乱療でした。1回の手術で140万円前後の報酬を得ていたそうです。
結果、病院の資金は潤沢で、病院内に美容室やアスレチック室、ラウンジなどの施設をつくり、一流ホテルを思わせる構えだったようです。このため、埼玉県内はもとより近県からも多数の妊婦が診察に来るなど繁盛していました。この結果、多数の何ら問題の無い健康な女性が二度と子供が産めない体にされたという相当悪質な事件です。

この事件は、同病院の妊婦患者が理事長の診察により「子宮ガン」を宣告された後、他病院で診察を受けたところ、その病院ではまったく問題が無いことを医師から告げられ、この乱診が発覚しました。その後、このような告発が警察に相次ぎ、内偵の結果、同病院理事長の無資格診療と不要手術が発覚したというもので、後に、不要手術をおこなった5人の医師らが、理事長の行為を黙認し従っていたことも判明した、という事件です。

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子供が欲しかったから病院に行ったのに、お金儲けのためだけに何ら問題のない正常な子宮や卵巣を摘出された方々の無念さを思うと、たまらない気分になります。
赤ちゃん
以上のような背景があり、医療法は、昭和23年制定以降、これまで5回の改正を重ね、今回の改正で6回目となります。これら改正の中で、大きな改正となったのが、「第一次改正」と「第五次改正」です。

次に、これまでの医療法改正の流れと主な内容をみていきましょう。 

医療法改正の流れとポイント
第一次改正(昭和60年成立・61年施行)
① 医療計画制度の導入
② 病院病床数の総量規制
③ 医療資源の効率的活用
④ 医療機関の機能分担と連携を促進
⑤ 医療圏内の必要病床数を制限

キーワードは、『地域医療計画の策定と駆け込み増床』です。
先述の医療機関の不祥事により、国は、失われた医療に対する国民の信頼を確保していくため、都道府県に対して、医療法人運営の適正化を図るための指導体制の整備を行なう『地域医療計画』を策定することとしました。
つまり、医療計画制度とは、第一次医療法改正により導入された新しい概念で、「高齢化社会が進展する中で、国民に対し適正な医療を確保していくために、医療資源の効率的活用に配慮しつつ、医療供給体制のシステム化を図ることを目的」に制度化されたものです。
(昭和61.8.30厚生省健康政策局長通知「健政発第563号」)

医療計画においては、医療圏[1])ごとに必要病床数を定め許可制とすることで、一定の猶予期間をおいて、その後は必要病床数を超える新たな病院・病床の設置を排除しました。この猶予期間中の『駆け込み増床』はありましたが、増加し続ける病院を規制するため病床抑制を行うことができました。

第二次改正(平成4年成立・5年施行)
①特定機能病院と療養型病床群制度の創設
②看護と介護を明確にし、医療の類型化、在宅医療の推進
③広告規制の緩和

目的は、『医療施設機能の体系化』で、それまで不明確だった病院の機能の違いを制度上明らかにし、症状に応じた良質かつ最適な医療を効率的に提供する医療提供体制の確保を法的に義務付けました。

第三次改正(平成9年成立・10年施行)
① 地域医療支援病院制度の創設
② 診療所における療養型病床群の設置
③ 在宅における介護サービスの在り方
④ 医療機関相互の機能分担
⑤ インフォームド・コンセントの法制化

第三次改正においては、地域の必要な医療を確保し、地域の医療機関の連携などを図る観点から、かかりつけ医等を支援する医療機関として、地域医療支援病院制度が創設されました。又、介護保険制度導入の基盤を整備し、インフォームド・コンセントを盛り込んだことが特徴です。
この医療政策には、それぞれの医療機関に明確な役割と機能を持たせることによって人々の大病院志向に歯止めをかけ、患者一人ひとりの症状に合った医療機関で、適切な医療を受けられる仕組みを作ろうという国の狙いがありました。

第四次改正(平成12年成立・13年施行)
① 一般病床と療養病床の区別
② 医療計画の見直し
③ 適正な入院医療の確保
④ 広告規制の緩和
⑤ 医師の臨床研修必修化

ポイントは、第一次改正以来の必要病床数(許可制)から基準病床数(届出制)に変わったことです。
医療提供体制の見直しを行い、患者にふさわしい医療を提供できる体制を確保するため、従来の「その他の病床」を『療養病床』と『一般病床』に区分しました。そして、病院開設者にそのいずれかを選択させ、一定の期日までに病床区分の届出を義務付け、期限までに届出がない場合、開設の許可を取り消すものとしました。
また、この時の改正で、医療安全管理体制の義務がなかった病院や有床診療所にも病院管理者に対し、一定の医療安全管理体制の確保が法的に義務づけられました。

この有床診療所等への医療安全管理体制の法的義務付けは、平成11年以降の相次ぐ医療事故の表面化により、医療の質向上と医療安全を確保し、医療サービスを維持し向上するための様々な取り組みが推し進められてきたという背景があります。(医療安全管理体制の確保に関しては、発行済みのMedical News第5号をご参照ください。)

第五次改正(平成18年成立・19年施行)
① 患者への医療に関する情報提供の推進
② 医療計画制度見直し等を通じた医療機能の分化・地域医療の連携体制の構築
③ 地域や診療科による医師不足問題対応
④  医療安全の確保
⑤  医療法人制度改革
⑥ 有床診療所に対する規制の見直し

第五次改正の特徴は、医療機能の分化・連携推進により、患者に切れ目のない医療を提供しQOL(Quality Of Life)[2]) の向上を図ることにあります。患者の視点に立ったものとなるよう全体的な見直しを行い、国民の医療に対する安心・信頼を確保し、少子・高齢化に対応した質の高い医療サービスが適切に受けられる体制を構築する内容となっており、過去最大の改正といわれています。
施設規制法としての色彩が強い印象がある医療法ですが、これまでの大きな改正の流れをみると、機能分化や連携といったところに軸足が置かれています。今回の第六次改正でも、この流れはさらに加速されており、2025年の超高齢化時代をにらみ、医療提供体制の再構築が最大の課題と位置づけられています。

第六次改正(平成26年6月成立・10月施行)
① 病床の機能分化・連携の推進
⇒病床機能報告制度と地域医療構想の策定
② 在宅医療の推進
③ 特定機能病院の承認の更新制の導入
④ 医師・看護職員確保対策
⑤ 医療機関における勤務環境の改善
⑥ 医療事故に係る調査の仕組み等の整備
⑦ 臨床研究の推進
⑧ 医療法人制度の見直

・・・・等々、非常に盛りだくさんですが、このうち、2014年10月から施行されているのが、①の病床機能報告制度、⑤の医療機関の勤務環境改善、⑧の医療法人制度の見直しです。また、2015年10月からは④の医師・看護職員確保対策として、看護師の届出制度、特定行為に係る看護師の研修制度や⑥の医療事故調査制度が開始されることになっています。
医療機関の勤務環境改善については、各都道府県に、可能であれば今年度中に、医療勤務環境改善支援センターが設置される予定です。医療勤務環境改善支援センターには、社会保険労務士や医業経営コンサルタントなどの各専門家が配置され、勤務環境の改善に取り組む医療機関に対して、相談支援、情報提供、研修会などを実施することになりますが、これについては、次号以降のメディカルニュースで取り上げ解説していきます。

次回は、いよいよ第六次改正の柱となっている「病床機能報告制度と地域医療構想の策定」の概略をみていくことにします。


[1]) 医療圏とは、地域の医療需要に対応して包括的な医療を提供していくための区域のことで、初期的な診療や治療を担う医療圏を一次医療圏、主に一般的な入院や治療を担う医療圏を二次医療圏、高度医療の提供を担う医療圏を三次医療圏といいます。

[2]) QOLとは、一人ひとりの人生の内容の質や社会的にみた生活の質のことを指します。