「難病医療法」成立による医療費助成制度の変化 (3)
カテゴリ:
タグ:

メディカルタイムス 8-3(1)

3. 法案提出から法成立までの経緯

このような経緯を踏まえ、現在は法律に基づかない予算事業である特定疾患治療研究事業として実施している難病の患者に対する医療や施策を、持続可能な社会保障制度として確立させるために法律案としてまとめられ、本年(平成26年)2月12日に「難病の患者に対する医療等に関する法律案」として国会へ提出されました。

 この法律案の中で、医療費助成制度については、

①    都道府県知事は、申請に基づき、医療費助成の対象難病(指定難病)の患者に対して、医療費を支給する。

②    指定難病にかかる医療を実施する医療機関(指定医療機関)を、都道府県知事が指定する。

(医療機関の開設者からの申請が必要)

③    支給認定の申請に添付する診断書は、指定医が作成する。

④    都道府県は、申請があった場合に支給認定をしないときは、指定難病審査会に審査をもとめなければならない。

⑤    医療費の支給に要する費用は都道府県の支弁とし、国は、その2分の1を負担する。

という内容が盛り込まれています。

 こうして提出された法案は、第186回通常国会にて4月22日衆議院本会議で審議され、「疾病数の上限を設けることなく、医学、医療の進歩等を踏まえて要件に該当する者ものは対象とする。地域格差が生じないよう取り組むとともに、医療機関等のネットワーク等を通じた情報の共有化を図る。長期にわたり疾病の療養を必要とする児童が成人しても切れ目のない医療及び自立支援が受けられるよう、指定難病の拡大、自立支援事業の取組促進を図る。」等の附帯決議をもって可決されました。

そしてさらに5月23日参議院本会議でも審議が行われ、衆議院の附帯決議の内容に加え「症状の変動の大きい難病患者の実態に即して、医療サービスや福祉サービスが提供されるよう、医療費助成や障害福祉サービスの対象者に係る基準の在り方等について、配慮すること」等の項目を追加し、可決されたことにより『難病の患者に対する医療等に関する法律(通称:難病医療法)』が成立いたしました。

これまでも、難病に対する対策として「研究事業の一環」としての医療費助成が行われていましたが、法律で定められたことにより、財源が安定的に確保できることになります。

この財源には本年4月からの消費増税分をあて、国と都道府県が半分ずつを負担することとなります。

4. 新しい医療費助成制度

こうして成立した難病医療法ですが、今までの医療費助成制度からどのように変化するのでしょうか。

まず、この法律においては『難病』を「発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾患にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの」と定義づけ、「難病の患者に対する良質かつ適切な医療の確保及び難病の患者の療養生活の質の維持向上を図り、もって国民保健の向上を図ること」を目的とすることが明示されました。[第一章第一条]

また、医療費助成の対象となる難病を「難病のうち、当該難病の患者数が本邦において厚生労働省令で定める人数に達せず、かつ、当該難病の診断に関し客観的な指標による一定の基準が定まっていることその他の厚生労働省令で定める要件を満たすものであって、当該難病の患者の置かれている状況からみて当該難病の患者に対する良質かつ適切な医療の確保を図る必要性が高いものとして、厚生労働大臣が厚生科学審議会の意見を聴いて指定するもの」を『指定難病』ということとしました。[第三章第一節第五条]

これにより、対象となる疾患が現在の56疾患から約300疾患へ拡大することとなりました。この拡大は一度に全対象疾患を適用とするのではなく、まずは約100疾患を8月中に決定し、秋以降に残りの約190疾患を選定するという2段階で行われることとなりました。

【図】 難病医療法における難病の定義

 メディカルタイムス 8-3(2)

厚生労働省:厚生科学審議会疾病対策部会指定難病検討委員会資料より転載[PDF]20140728厚生科学審議会疾病対策部会指定難病検討委員会(第1回) 資料3 指定難病の要件について0000052381

 そして「厚生労働大臣が厚生科学審議会の意見を聴いて指定すること」という規定に基づいて、客観的かつ公平に疾病を選定するために『指定難病検討委員会』が設置され、平成27年1月から先行して助成を実施する第一次実施分の指定難病113疾患を検討し、8月4日大筋で了承されました。

 【図】指定難病113疾患

メディカルタイムス 8-3(3)

この113疾患が認定されると、助成対象患者数が現行の約78万人から約120万人となる見込みです。今後、助成の基準となる疾患ごとの重症度分類等を整理して8月中にとりまとめた後、パブリックコメントを募り更に検討した後、8月中に決定する予定です。(8月11日時点)

現時点で検討に時間を要する疾患については、基礎的資料の収集・整理を行った上で今秋以降に議論し、第二次実施分として平成27年夏の助成開始を目指します。

全約300疾患が対象となった場合には、対象患者数は約150万人に上る見込みです。

患者の自己負担については、現在の3割から2割へ軽減され、さらに所得状況に応じて負担軽減が図られますが、対象となる基準の中で重症度が一定以上であること、とされていますので、現在の認定を受けている患者であっても対象外となる場合が出てきます。(3年間の経過措置あり)

また、現在は重症患者については自己負担金が無料となっていますが、新制度においては重症者であっても所得に応じて負担が発生するため、患者によっては「改悪」と感じるケースも出てきますので、来年1月からの実施に向けて医療機関においてもあらかじめ周知する必要があるのではないでしょうか。

【図】 新たな医療費助成制度における自己負担限度額(月額)

 メディカルタイムス 8-3(4)

厚生労働省:厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会資料より転載

 [PDF]厚生科学審議会疾病対策部会・難病対策委員会での審議 とりまとめ-2平成25年12月13日難病対策の改革に向けた取組について(報告書のとりまとめ)(本体)

5. 今後の課題

さて、今回の大きな改革により対象となる難病や対象患者が大幅に増えることとなり、新たに医療費助成の対象となる患者においては、治療研究の促進への期待、高額な医療費に対する不安の解消など、「改良」の改革となることは間違いありません。

しかしながら、今後の患者数の増加、医療の更なる進歩などにより、今回対象から外れてしまう重症度の低い患者と同様に対象となる一定の基準から外れてしまう可能性もあります。

 すべての病気、すべての患者に対してやさしい(良いと感じられる)制度を実現するというのは、現実的には難しいことだと思います。障害者自立支援法が制定された際に、「障害者いじめの法律」と言われたように、制度である以上決まり事があって、それが国全体のことを考えると良い方策であったとしても、自分(個人)にとっては自己負担金が増えたり、該当しない者に関しては「切り捨て」という印象を受けるのは否めません。

「不公平感」の解消という問題については、患者の生の声を聴きつつ、今後も改善を継続する必要がある課題ではないでしょうか。