-はじめに-
病院経営にとって、医療安全を確保することは、質のよい医療サービスを提供する上での最重要課題といえます。法的にも医療安全を確保するための措置として、医療安全管理のための指針を整備することや医療安全管理のための職員研修などが義務付けられています。
では、医療安全とは何でしょうか………。
医療安全とは、医療事故や紛争を起こさないための方策とともに、医療事故や紛争が起きた場合の対応策に取り組むことをいいます。医療事故や紛争を未然に防止するための方策としては「ヒヤリ・ハット報告」や「インフォームド・コンセント」等、また医療事故や紛争が起きた場合の対応策としては「事故発生時の報告体制」「警察への対応」「マスコミ対策と外部への公表」等のリスクマネジメントが考えられ、非常に幅広い概念といえます。
特に「インフォームド・コンセント」は、医療行為が行われる前のことで、患者とのトラブルを回避するか否かを決するという意味で「インフォームド・コンセント」を、理解し実施することが医療安全を確保するための最たる方策と言えるでしょう。
そこで、今回は、医療安全について国民の社会的関心が高まる契機となった1999年に起きた医療事故を概観し、「インフォームド・コンセント」が、どういう経緯で生まれ、いかなる概念かについて考えてみます。
まず、医療安全の確保、管理体制を義務付ける法的根拠をみてみましょう。
1.医療安全管理体制の法的根拠
医療法第6条の10では
「病院、診療所又は助産所の管理者は、厚生労働省令 注1) で定めるところにより、医療の安全を確保するための指針の策定、従業者に対する研修の実施その他の当該病院、診療所又は助産所における医療の安全を確保するための措置を講じなければならない。」と定め、
厚生労働省令では、 以下の四項目を挙げて医療安全の確保を求めています。
医療法施行規則第1条の11
「病院等の管理者は、法第6条の10 の規定に基づき、次に掲げる安全管理のための体制を確保しなければならない(ただし、第二号については、病院、患者を入院させるための施設を有する診療所及び入所施設を有する助産所に限る。)」
一 医療に係る安全管理のための指針を整備すること。
二 医療に係る安全管理のための委員会を開催すること。
三 医療に係る安全管理のための職員研修を実施すること。
四 医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずること。
注1) |
医療法施行規則に定める各活動の実施方法に関しては、「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の一部の施行について(2007年3月30日付医政発第0330010号)」通知において具体的に言及しています。http://www.pref.miyazaki.lg.jp/parts/000165163.pdf
例えば、「医療に係る安全管理のための委員会」は、「各部門の安全管理のための責任者で構成」し、「月1回程度開催」することを求めています。医療安全管理委員会とは、医療機関全体としてのリスク管理の方針を決定する機関のことで、構成員は、院長あるいは副院長、薬剤部長、診療部長、看護部長、事務部長など各部門の責任者で構成しなければなりません。
また、「医療に係る安全管理のための職員研修」では、「職種横断的」に「年2回程度定期的に開催」することを求めており、活動記録を残すことも必要とされています。当該研修においては、正職員、非正規職員、業務委託先の職員もその対象として含まれる点に留意しなければなりません。